なぜ「休みの日なのに回復しない」のか。週末にやりがちな“子どもを疲れさせる習慣”/小児科専門医・成田奈緒子先生
週末は楽しく過ごしたはずなのに、月曜日の朝になるとなぜか子どもがぐったりしている。そんな経験はないでしょうか。小児科専門医であり、著書『子ども脳疲労』を上梓した成田奈緒子さんに、「子どもを回復させるうえで見落とされていること」を聞きました。
週末にやってはいけない過ごし方
ーー子どもは大人が思っているよりも学校などで心身ともに疲れていること、回復のためには十分な睡眠が必要であることがわかりました。平日が忙しいぶん、週末は家でゆっくり休んだり、逆にアクティブに出かけたり様々な家庭の過ごし方があると思いますが、週末の過ごし方で気を付けた方が良いことはなんですか。
成田奈緒子先生(以下、成田) 一番気を付けてほしいのは生活リズムを土日でも崩さないことです。寝る時間・起きる時間は、平日と±1時間以内にする必要があります。それ以上ずれると、脳が時差ボケのような状態になってしまうのです。
ーー習い事を週末に複数入れていたり、週末は家族で過ごす時間を大切にしたいという思いから、外出する家庭も多いと思います。
成田 その気持ちはとてもよく分かりますし、週末を活動的に過ごすことはまったく問題ありません。一番良くないのは「生活リズムが乱れること」です。
たとえば、テーマパークに行って遊んでも、いつもと同じ時間に就寝できれば問題にはなりません。しかし夜遅くまで連れ回されて就寝時刻が遅くなると、それだけで睡眠の質が落ちて、平日のパフォーマンスが下がってしまいます。
逆に、おうちでゆっくりだらだら過ごしても構いません。ただし、寝る時刻と起きる時刻だけはブレさせないでください。先ほどお伝えしたように、これが乱れると脳のリズムが狂い、平日も疲れが取れないまま過ごすことになります。
ーーたしかに土日にゴロゴロして過ごしたのに、月曜の朝からもう疲れている、ということもよくあります。
成田 朝7時に起きているなら、土日も遅くても8時までには起きること。大切なのは、「同じリズムの中で過ごす」ことです。休日だからといって昼まで寝てしまうと、いわば自分で時差ボケを作っている状態になり、その状態から回復するまでに、また時間がかかってしまうのです。
思春期からでも遅くない
ーーここまでのお話をうかがっていると、「もっと早く知りたかった」と感じる方も多いと思います。
成田 そう感じてしまうのは無理もないと思います。実際にそういったご相談もとても多いです。ただ、はっきりお伝えしたいのは、「もう遅い」ということは決してない、ということです。生活リズムは、どのタイミングからでも作り直すことができます。
ーー幼少期に生活リズムを整えられなかった場合、小中学生でも改善は可能ですか。
成田 年齢によってアプローチの仕方は変わってきます。小さいお子さんであれば、親が主導して生活を整えてあげることができますが、小学校高学年や中高生になると、「やりなさい」と言われても簡単には動かなくなりますよね。思春期であればなおさら、「親に言われたくない」という感情も自然なものとして出てきます。
ーー確かに、難しさを感じる場面が増えます。
成田 だからこそ大切なのは、「コントロールしようとすること」ではなく、「納得してもらうこと」です。なぜこの生活リズムが必要なのか。なぜ早く寝ることが大切なのか。そういったことを、正しい知識として伝えてあげる。単なる“親のルール”ではなく、脳の仕組みとして理解すると、子ども自身が腑に落ちることも多いですよ。
ーー子ども自身が選べるようになる、ということですね。
成田 実際に、私のところに相談に来られるご家庭でも、中学生や高校生のお子さんが、自分の意思で生活リズムを見直していくケースは少なくありません。一度「なぜ必要なのか」が分かると、自分自身で「今日は少し遅くなったから明日は早く寝よう」とか、「朝起きて少しやってみよう」といったことを判断できるようになっていきます。
ーー親が無理に引っ張らなくてもいいんですね。
成田 むしろ親が「こうしなさい」とそれまで違うことを薦めると、反発が強くなってしまうこともあります。
大事なのは、「寝る・起きる・食べる」という生活の軸を家族で共有すること。この軸が共通認識として持てていれば、多少リズムが崩れる日があっても、「じゃあ次はどう調整しようか」と自然に戻していくことができるようになります。
もちろん、小さい頃から整えている場合に比べて、時間がかかったり、試行錯誤が必要だったりすることはあります。でも、「間に合わない」ということではありません。
どうしても「これまでの関わり方がよくなかったのでは」と自分を責めてしまう親御さんは多いのですが、そうではなくて、ここからどう整えていくかの方がずっと大切です。生活の軸を少しずつ整えていくだけで、子どもの状態は確実に変わっていきます。焦らずに、できることからで大丈夫です。
正論を押し付けても人は動かない
ーー生活リズムの大切さは理解しても、パートナーに協力してもらうのが難しいという悩みも多いと思います。特にお子さんが小さくて育児を分担していると、「こうしてほしい」というやり方をうまく共有できずに困っているという声はよく聞きます。
成田 そうですね。人って「正しいことを言っているのだから、相手はわかってくれる」と思いがちですが、実際にはなかなかうまくいきません。「これが正しいからやってほしい」と一方的に伝える形だと、どうしても押し付けになってしまう。そうすると、相手は納得して動くというよりは、「言われたから仕方なくやる」か、あるいは反発する方向に行きやすいんですね。
ーーでは、どう関わるのがよいのでしょうか。
成田 大切なのは「正論」ではなく「対話」です。相手がどんな状況にいるのか、どういう生活リズムなのか、何を大事にしているのか。そういった文脈をきちんと理解したうえで、こちらの考えも伝えて、お互いに無理のない落としどころをすり合わせていくことが必要です。
たとえば、ご家族の帰宅時間ひとつをとっても、「この時間帯は子どもが眠りに入りかけているから、できれば少しずらしてもらえると助かる」といったように、具体的に伝えるだけでも受け取り方は変わります。
ーーコミュニケーションの仕方そのものが重要なんですね。
成田 もうひとつ、とても大事なことがあります。
ーーそれは何でしょうか。
成田 親が安心していることです。親自身がいつも焦っていたり、不安を抱えていたり、余裕がない状態でいると、それはそのまま子どもに伝わります。どんなに理屈として正しいことを言っていても、子どもにとって家庭が「安心できる場所」でなければ、脳は休まらないんです。
逆に、親がリラックスして笑顔でいられると、それだけで子どもは安心できます。家庭は本来、外で使ったエネルギーを回復する場所です。そこが緊張やプレッシャーを感じる場所になってしまうと、回復するどころか、さらに疲れてしまう。それが一番大きな問題だと思います。
生活の中で脳を育てるヒント
ーー親自身にとっても、家庭が安心できる場所であることが大切ですね。ただ、外では仕事に追われて家では家事に忙殺されてしまう、という声も少なくありません。
成田 そうですね。私も様々な相談を受けていて特に感じるのは、「家庭の中の役割の偏り」です。多くのご家庭で、お母さんがひとりで家事と子育てを回しているケースが多い。でも、本来家庭というのは生活共同体ですから、そこにいる全員が担うものだと考えられませんか。
ーー子どもも含めて、ということですね。
成田 子どもも立派な家族の構成員なので、それぞれにできる役割があります。たとえば、小学生であれば洗濯機を回すこともできますし、食事の準備を手伝うこともできます。もっと小さい子でも、お皿を運ぶとか、一緒に片づけるとか、できることはたくさんあります。
ーー子どもに任せるより自分でやった方が早い、と思ってしまいそうです。
成田 そう思ってしまうのも自然ですが、実はその「生活」を一緒に回すこと自体が、脳の成長にとってとても重要なんです。家事というのは、段取りを考えたり、同時に複数のことを進めたり、状況に応じて判断したりと、前頭葉をフルに使う活動です。いわば、生活そのものがトレーニングなんですね。
ーー生活の中に「脳を育てる要素」があるということですね。
成田 そうです。しかも、それを家族で一緒にやることで、「できたね」とか「助かったよ」といったポジティブな関係性も生まれます。その積み重ねが、安心感にもつながっていきます。
ーーここまでのお話をうかがっていると、「子どもを変えなきゃ」という前提自体が違うように感じます。
成田 その通りです。宿題やゲームは生活そのものではありません。あくまで「余裕があったらやるもの」です。まず生活がきちんと回っていること。その上で時間が余ったら勉強なり遊びなりをする、という順番です。この順番が逆になっているケースがとても多くて、それが結果的に子どもを疲れさせる一因になっています。
「今、動けていない」という状態は、決してネガティブなものではなく、「休む必要がある」というサインです。まずはしっかり休ませること。生活の軸を整えること。そこから、子どもはちゃんと育っていきます。それがすべてのスタートになると思います。
(取材・文 マイナビ子育て編集部)
