【歯科医師監修】おしゃぶりは歯並びが悪くなるって本当? 使い方の注意点
おしゃぶりは便利な育児グッズですが、歯並びが悪くなりやすいというのは本当でしょうか? ここではおしゃぶりと歯並びの関係や、使う時の注意点、やめる時のポイントなどについてお話します。
おしゃぶりと歯並びの関係
歯が生える前から使うおしゃぶりですが、歯並びとは関係があるのでしょうか?
長期のおしゃぶりは歯並びに影響する
おしゃぶりと歯並びについての調査結果によると、2歳でおしゃぶりをしている子には奥歯を咬み合わせても前歯が噛み合わなくなる「開咬(かいこう:オープンバイト)」がよく見られる、と報告されています。5歳でおしゃぶりをしている子には、さらにこの「開咬」が増えていきます[*1]。
この研究からは、おしゃぶりを使い続けている子は年齢が上がれば上がるほど、開咬が増えていくことがわかります。歯並び・かみ合わせを考えたら、おしゃぶりを長期的に使わないことが重要だと言えます。
何歳までならおしゃぶりは大丈夫?
それでは、何歳までならおしゃぶりを使っても大丈夫なのでしょうか?
おしゃぶりを使っている子を調べると、年齢に関わらず噛み合わせが悪いことが非常に多いようです。
ただし、1歳6ヶ月や2歳の子の場合は、おしゃぶりをやめれば噛み合わせが改善していくこともわかっています。その一方で、乳臼歯(にゅうきゅうし:乳歯の奥歯)が生えそろう2歳半や3歳すぎまでおしゃぶりを使い続けていると、おしゃぶりをやめても悪くなった噛み合わせは治らなくなってしまいます[*1][*2]。
噛み合わせへの影響を考えると、おしゃぶりは乳歯の奥歯が生えてくる1歳半ごろから遅くとも2歳半ごろまでにやめることが望ましいでしょう。
授乳がうまくいかなくなることも
おしゃぶりは、歯並びだけでなく授乳にも影響することがわかっています。
1982年のWHO/UNICEFの共同声明では、「母乳で育てている赤ちゃんに人工乳首やおしゃぶりを与えない」としています(現在では「哺乳びん、人工乳首、おしゃぶりの使用とリスクについて、母親と十分話し合う」と改訂[*3])。これは、哺乳瓶の乳首やおしゃぶりの形状や大きさが適切でない場合、本来の哺乳よりも楽に吸えるパターンに口唇や舌が慣れてしまい、ママの乳房から飲むことを嫌がる「乳頭混乱」が起こる可能性があるからです。哺乳は子供が最初に獲得する大切な口腔機能なのです。
おしゃぶりのメリットって?
おしゃぶりは、歯並び・かみ合わせに影響を与えることがありますが、それとともに色々なメリットもあります。
赤ちゃんが落ち着く
赤ちゃんにもよりますが、おしゃぶりなどを吸っていると赤ちゃんは気持ちが落ち着く効果があるとされています。そのため、グズっていても泣き止みやすくなり、機嫌よく静かに過ごしやすくなります。
赤ちゃんがリラックスできていると、大人の気持ちも楽になりますね。
スムーズに入眠できる
おしゃぶりを吸っていると気持ちが鎮まるので、寝つくのもスムーズになります。
赤ちゃんの中にはなかなか寝つかない子もいます。そんな子にとって、おしゃぶりは寝かしつけグッズの1つとして役立ちます。
子育てのストレスが減る
赤ちゃんが興奮しにくくなり、落ち着いて機嫌よくしていてくれると、子育てのストレスも軽減されるでしょう。
空腹な時はもちろん授乳しなければいけませんが、それ以外の時にもおっぱいを頻繁にほしがり過ぎてつらいということであれば、乳首に近い形態のおしゃぶりを代わりに吸ってもらえば、しんどさもいくらか軽くなるでしょう。
乳児突然死症候群の予防になるという説も
アメリカの小児科学会は、SIDS(乳幼児突然死症候群)を防ぐため「昼寝と就寝時におしゃぶりを使うこと」を推奨事項として挙げています[*4]。SIDSとは、病気などにかかったこともない(既往歴がない)赤ちゃんや子供が、何の予兆もないまま命を落とす原因不明の病気です。
SIDS予防とおしゃぶりの関係について、詳細なメカニズムは不明ですが、赤ちゃんが寝入った後に口からおしゃぶりが外れてしまっても、SIDS発生の予防効果があるともされています。
ただし、日本では親子で同じ部屋に寝ることが多く、寝ている間もそばで赤ちゃんの様子を見ることができるなど、アメリカとは就寝環境が大きく異なるため、必ずしもアメリカの予防策が当てはまるとは限りません。また、赤ちゃんがおしゃぶりを嫌がったら、強制しなくてよいともされています。
なお、日本の厚生労働省などで推奨されているSIDS予防策としては「1歳になるまでは仰向けで寝かせる」「まわりの大人の禁煙」「できるだけ母乳育児をする」の3つがあげられています[*5]。
おしゃぶりを使う時はこれに注意!
おしゃぶりのデメリットを抑えて便利に使うためには、次の3つがポイントになります。
・1歳を過ぎたらおしゃぶりのフォルダーを外し、いつでも使用するのはやめる。
・遅くとも2歳半までにおしゃぶりをやめる。
・おしゃぶりを使っている間も、親子の触れ合いを大切にする。
おしゃぶりで赤ちゃんがぐずらないからと言って、スキンシップが少なくなってしまうのは問題です。声をかけたり一緒に遊んだりと、コミュニケーションをたくさんとるようにしましょう。また、空腹などの要求サインを見逃さないようにすることも大切です[*1]。
おしゃぶりのやめ方って?
まずは寝る時以外はやめて
子供にとって、おしゃぶりは楽しくて気持ちが落ち着くアイテムです。だから、親が突然「おしゃぶりをやめよう」と言っても、なかなかやめられないはず。
おしゃぶりについての調査結果によれば、「おしゃぶりを少しずつ使わないようにしていき、寝かしつけの時だけ使うようにしていく」という方法が一番スムーズだとされています[*6]。
子供との触れ合いを増やす
おしゃぶりについての調査を見ると、おしゃぶりをやめた理由として「子供があきて使わなくなったから」というのが最も多くあげられています[*7]。
成長とともに外の世界に興味が向くと、おしゃぶりへのこだわりが薄れてきて、おしゃぶりをやめやすくなると考えられます。手遊びや外遊びなど身体をつかって遊ぶ時間を十分にとり、おしゃぶりの時間を少なくしていきましょう。家族とのコミュニケーションにもつながります。
また、指しゃぶりなどをやめさせるための絵本を読み聞かせたりするのもおすすめです。
なかなかやめられない時は
色々な工夫をしても、なかなかおしゃぶりをやめられない子もいます。
4歳を過ぎてもおしゃぶりがやめられない場合は、かかりつけの小児科などに相談してみるといいですね[*1]。まずはその子の口腔機能や精神的な発達をみながら、おしゃぶりに頼ってしまう気持ちを切り替えていけるためにどんなことができるのか、プロと一緒に考えていきましょう。「もう、赤ちゃんじゃないでしょ!」などと叱ってばかりいるの避けたいですね。
まとめ
おしゃぶりは長く使えば使うほど、歯並び・かみ合わせが悪くなりやすくなります。特に2歳半~3歳になってもおしゃぶりを使っていると、かみ合わせが悪くなったまま、いわゆる出っ歯になり、治りにくくなってしまいます。
また、口腔機能の発達や発語などのコミュニケーションへの影響が出ることもあります。
おしゃぶりには赤ちゃんが落ち着く、子育てのストレスを減らせるなどのメリットもあります。頼りすぎない程度に、上手に利用するように心がけたいですね。
1歳過ぎたらおしゃぶりを使う時間を減らして、遅くとも2歳半までにやめるようにしましょう。なかなかやめられない時にはかかりつけの小児科などに相談して、できるだけスムーズにやめていきたいですね。
(文:大崎典子/監修:石塚ひろみ先生)
※画像はイメージです
人気のおしゃぶり
[*1]「おしゃぶりについての考え方」小児科と小児歯科の保健検討委員会
[*2]「こどもたちの口と歯の質問箱」日本小児歯科学会
[*3]WHO「Ten steps to successful breastfeeding」
[*4]アメリカ小児科学会「SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment」
[*5]厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
[*6]「1歳6ヵ月児における口腔習癖、特に Pacifier、吸指癖の経年調査」小児歯科学雑誌 43(2):213 2005
[*7]「おしゃぶりについての実態調査-第1報おしゃぶりの使用状況について-」小児歯科学雑誌 43(5):652-659 2005
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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