臨床心理士監修|育てにくい子は発達障害なの?<体験談>親ができること
子育てをしていると、「育てにくいなぁ」と思うことも。あまりに大変だと「もしかして、発達障害 ……?」という考えが頭をよぎることだってあるかもしれません。育てにくい子の特徴とそう感じる理由、発達障害との関係とともに対処法を紹介します。
<体験談>わが子は「育てにくい」と感じたことはある?
子育て経験のある男女202人に、子どもが未就学児までのころに「育てにくい」と感じたことはあるかどうかを聞きました。
「6割以上」が感じたことがある
その結果、65%の人が育てにくいと感じたことがあると回答しました。
◆アンケート情報 2021年12月18日 調査対象:マイナビニュース会員 調査数:202名 調査方法:インターネットログイン式アンケート ※マイナビニュース会員とは、Tポイントが貯まるアンケートやキャンペーンの参加、メールマガジンの購読などができる「マイナビニュース」の会員サービスです。(https://news.mynavi.jp/lp/2018/present/present/register_campaign/) ※ここで紹介した方法と結果は、個人の体験によるものです。記載の方法を推奨したり、結果を保証するものではありません。
とくに多かったのが「2~3歳」!
育てにくいと感じたのは、その子が何歳ごろのことかも聞いたところ、半数近くの人が「2~3歳」と回答しました。
「イヤイヤ期」や「魔の2歳児」という言葉もあるように、このころ育てにくさを感じる人は多いようです。
育てにくい子の特徴は?
育てにくいと言っても、どんなところに困難を感じるかやその程度はいろいろありますよね。
育てにくいと感じていた時期、わが子のどんなところに困っていたかも、先輩ママパパに聞きました。
<体験談>ここに困った……
赤ちゃん~3歳くらい
0歳の赤ちゃんが、なかなか寝てくれないのはよくあることです。
しかし、寝室の環境や寝かしつけ方法など、できることを工夫しているのに、あまりにも寝ない・夜泣きがひどい場合や長引いている場合は、その子自身に何か問題があるのではないかとだんだん心配になってくるかもしれません。
ママやパパの睡眠にも支障が出て、健康に影響することも。
いわゆる「多動」ではないかと心配する保護者の方もとても多いです。
原因はいろいろありますが、人混みや音に敏感で、「興奮しやすい」タイプの子もいます。
子どもがたくさんいて賑やかな支援センターや、いろいろな音が聞こえるショッピングモールに行くと、「走り回る」「動きが止まらない」などの様子が見られます。
このころは「癇癪」がひどいという悩みもよく聞きます。少しでも気に入らないことがあると「わーっ」と泣き出して、なかなか切り替えられない。床に寝そべったり、暴れたりする……。
とくに、「イヤイヤ期」と言われる2歳前後の子によく見られますが、3歳を過ぎてもこのような状態が続く子もいます。ある程度言葉を理解したり、伝えられるようになったりしても続く場合は、親の接し方を工夫したり、その子に合った支援が必要になることもあります。
「こだわりが強くて心配……」と相談されることもあります。
「こだわり」というのは、ある程度どの子ももっています。しかし、日常生活に支障が出るほど強いこだわりがあるとママやパパも困ってしまいますよね。
こだわり自体に問題がない場合は、まずはママやパパがしっかり心身を休める時間を確保して、
こだわりに付き合ってあげるエネルギーを養うこともひとつの手です。
(たかだ ちかこ 先生)
3歳~集団生活の中で見えてくること
家庭で子育てをしているときは気にならなかったことが、集団に入って初めて気になるようになることも多いです。保育園や幼稚園に通いだすと、先生からやんわり指摘されたり運動会や発表会の様子を見て「他の子と違うな」と思ったりすることもあるでしょう。
集団生活では、指示を聞けなかったり集団行動できずうろうろしてしまったりするとどうしても目立ちます。家ではできることが園ではできない、なんてこともあるでしょう。
また、コミュニケーションが苦手で、友達と頻繁にトラブルを起こす、なんてことも……。トラブルの中で学んでいければよいのですが、同じことを繰り返しなかなかトラブルが減らない場合は大人の適切なサポートが必要ですね。
朝の会などで座っていられなかったり、集中して話を聴けなかったりする子もいます。
年長になると、就学につなげるため長い時間座って何かをする活動も増えてきますが、この時期になってもほとんど座っていられない子もいます。
こんな場合も
人見知りが激しいと育てにくいと思うかもしれませんが、
逆に、人見知りが全くないというか、
「相手との距離感がつかめないタイプの子」もいます。
「会話をするときに顔を近付けすぎる」「列に並ぶときに前の子に近づきすぎる」など物理的な距離感もありますが、「心の距離感」を適切にとるのが苦手ということもあります。こういった子では、人に対して親しみをもちやすい反面、ほど良い距離感でコミュニケーションが取れないので、トラブルが絶えないことも……。
また、「場所見知りが全くない」ということもありますね。こういった子は知らない場所でも平気なので、一見楽そうに思えるかもしれません。ただ、どこにいてもママやパパの顔色を全く気にせず、自分の興味があるもののところに猪突猛進してしまうことで、事故や事件に巻き込まれるなどの危険が生じる場合があります。
育てにくさの原因は発達障害?
近年、子育てや教育などについて研究が進み、しつけや生活環境のせいではなく、子ども自身の特性が原因の「育てにくさ」も珍しくないことがわかってきました。
発達障害が原因と「決めつけないで」
育てにくさにつながる子ども自身の特性とは、「自閉スペクトラム症(ASD、アスペルガー症候群)」や「注意欠如・多動症(ADHD)」などといった「発達障害」を持っている場合のことです。
発達障害は、「脳の機能的な問題」によって日常生活や社会生活などでさまざまな困難が起こります。ASD、ADHD以外にもいくつかあり、特徴はそれぞれ異なります。また、個々の程度や複数の発達障害を併せ持つ場合もあるなど、状況は子どもにより千差万別ですが、全国の通常学級の小・中学生のうち平成24年の調査時点では「およそ6.5%は発達障害の可能性があった」ことがわかっています[*1]。
こうした子どもの数は年々増加しており、平成24年時点では、ADHDや学習障害、自閉症などがあり、通級による指導を受けている小・中・高校生の数は、全国で7万人ほどでしたが、令和元年の調査では13万人以上と、10年も経たないうちにほぼ倍増していることがわかっています[*2]。
これは、発達障害の存在が社会で認知されてきたことなどが背景にあると考えられますが、いずれにしてもこうしたもともと困難を抱えている子どもはけして珍しくはないことがわかりますね。
発達障害かどうか心配だという場合は、
保健センターや医師などに相談してみましょう。
(たかだ ちかこ 先生)
しかし、「育てにくい子」=「発達障害」と決めつけるのは危険です。俗に言う「イヤイヤ期」などがあるように、発達障害がない子であっても保護者が育てにくさを感じる場面はよくあるからです。
このあと、発達障害とはまた別によくある「育てにくさ」の原因と、その場合に有効な言葉がけやかかわり方を解説します。
親が育てにくい子と感じるとき|よくある3つの原因
「育てにくい」と一口に言っても、困り感がそれぞれ違うように、原因もさまざまです。ここでは、私が経験した過去にあった事例をいくつか紹介していきます。
ご飯を食べてくれない……子どもの立場に立って!
保育園に勤めていたとき、「ご飯を食べてくれない」と悩む保護者の方はとても多かったです。子どもは味覚や口の中、喉などはもちろん、気持ちもとても敏感です。
「食べない」というとき、単純に味が嫌いなだけでなく、
「(どろどろ・固いなどの)食感・触感が気持ち悪い」
「見た目に警戒している」
「手づかみで食べたい」
「自分で食べたい」
「今は気分じゃない」
「(眠い・遊びたいなど)ほかのことがしたい」
中でも見落としがちなのは、「歯」です。歯がまだ生えそろっていないというのは、ところどころ歯がなくガタガタな状態で、その状態で食事をするのは大人であってもすごく疲れることです。「歯を失ってしまった人」が入れ歯なしで食べているのと似たようなものなのです。
ましてや、子どもはまだ嚙む力やあごの筋肉も弱いですから、その状態を考えると、食事を嫌がることがあるのもわかりますよね。
子どもの立場に立って、何が嫌なのか探ってあげる
ことが解決につながることも多いですよ。
発音がおかしいのは、耳のせいだった?!
ある5歳児の女の子の事例です。言葉は話せるし会話もしっかりと成り立つのですが、発音がおかしい、そろそろ年長児クラスに上がるので心配……と保護者から相談され、専門家を紹介しました。
その結果、発達には問題がなさそうなので、耳が原因では?と耳鼻科を受診したところ……なんと、とても大きな耳垢が耳の穴を塞いでおり、耳がきちんと聞こえていなかったことが判明したのです。
子どもの耳の「中」の掃除は家庭でしてはダメとよく言われますよね。
耳の「中」の耳垢は自然に出てくると言われていますが、個人差があるので
気になる場合は耳鼻科で耳掃除をしてもらうといいですよ。
言葉が出ない……大人のかかわり方のせい?
「言葉が出ない」という心配は本当に多いです。でも実はこれ、「大人が話す必要をなくしてしまっている」ことが原因の場合も。
子どもが困っていることにいち早く気づいて助けてあげることは、一見やさしさに思えるかもしれませんが、実はとっても危険。子どもが何もアクションを起こさないうちから
「これ取ってほしいのね、はい」
「(水が飲みたいのかな)はい、どうぞ」
などなど親が一方的に子どもの気持ちを先取りして行動してしまうと、“何もしなくてもやってもらえる”と話す必要を感じないどころか、自ら何かをしようとする意欲まで失わせてしまいます。
もちろん、まだ上手に話せない子どもの気持ちをある程度汲み取ってあげる必要はありますが、実はそれを「しっかり言葉にすること」が大切なのです。
例えば、おもちゃを欲しそうに手を伸ばしているなら、まずは見守ります(自分で工夫して取るかもしれないからです)。
そして、困って大人のほうを見たり泣いたりと何かしらのアクションを起こしたら、そこで初めて助けにいきます。
助けるときは、無言で行うのではなく、「車を取ってほしいのね、『ママ、くるま、とって』だね。はい、どうぞ」などと、子どもの気持ちを代弁してあげると、子どもはその言葉を吸収していきますよ。
また、赤ちゃん言葉も発語を助けます。赤ちゃん言葉で積極的に話しかけた子は2歳時点で、そうでなかった子の約3倍の言葉を知っていたという研究結果もあります[*3]。ただし、3歳ごろ を過ぎたら徐々に正しい日本語を伝え、切り替えられるようにしていくとよいですよ。
ある程度言葉を話せるようになったら、代弁しすぎるのもよくありません。子どもが自分で考えて言葉を発するのを待ったり、「何ていうんだっけ」などときっかけを作ってあげたりすることで、話すことの必要性が感じられるようにしましょう。
幼稚園教諭だったころ、
何も話さず指示待ちだった子が、この方法を試すことで自ら発信できるようになったことはよくありました。
変だなと思ったら専門家に相談して
なお、育てにくさが気になったとき「発達障害ではなさそうだから放っておいて大丈夫」ではありませんし、「発達障害だから何をしてもダメ」でもありません。
どちらにせよ、専門家に相談することで、子どもの特徴を知り、その子に合った接し方や苦手部分を克服できるような声かけを教えてもらうことができます。
育てにくいと悩んでいるなら、一人で抱え込まず、
保育園や幼稚園の担任の先生や市の子育て相談員などに気になる点を相談することで、
気づきをもらえたり解決したりすることもありますよ。
<アンケート>誰かに相談した?
育てにくいと悩んでいても、悩みについて具体的に話すのが難しかったり、他人に相談するのを躊躇するのはよくあることです。先輩ママパパに、育てにくさが気になった時、誰かに相談したかどうかも聞きました。
半分以上の人が家族や友人に相談
子どもの育てにくさが気になった人のうち、約4分の3の人は「誰かに相談した」と回答しました。
中でももっとも多かったのは「家族や友人」。身近で相談しやすいことに加え、子どもの普段の様子を見ていることが多く、親以外の目線から見たわが子について話が聞けるのも、相談先として選ばれた理由かもしれません。
アドバイスが役立った人は「8割以上」
そして、誰かに「育てにくい子」について相談した結果、もらったアドバイスが役立ったかどうかでは、「8割以上の人が役立った」と回答していました。
役だった・なるほどと感じたアドバイス
育てにくい子に親ができること
「育てにくいなぁ」と感じたら、まずは「子どもが困っている」と考えましょう。最後に、育てにくいと感じる子に親ができる対処法を紹介します。
叱るのではなくきちんと説明する
叱ることももちろん大切ですが、その前に、まず説明をすることが必要です。
【0~1歳児の例】生まれて初めてのことを叱るのはNG
初めて子どもが絵本を破いてしまったとき、いきなり「ダメ!」と言っていませんか?絵本を破いてはいけない、なんて、生まれてから一度も言われたことがない子がわかるはずありません。
「なんでそんなことするの!」と思うかもしれませんが、絵本を破いてほしくなかったら、
「読めなくなっちゃうから」
「ママが悲しいから」
というように、破かないでほしい理由を丁寧に繰り返し伝えていきましょう。
赤ちゃんの頃は、好奇心を育てるためにあえて絵本を破っても叱らないという手もありますよ。また、「破きたいならこれにしてね」とチラシなどを代わりに渡すのもよいです。
何にせよ、「生まれて初めてやったこと」に対して、いきなり頭ごなしに叱らないようにしたいですね。
【3~5歳児の例】友達の気持ちを理解できるように
ブロックなどで遊んでいて、友達の作ったものを壊してしまうことがありますよね。友達は悲しんだり、怒ったり……。でも、その友達の気持ちを実は理解できていないのかもしれません。もちろん、理解できていても自分本位に行動するのも子どもです。
しかし、「壊されてしまった子がどんな気持ちだったか」を伝えたり、「自分だったらどんな気持ちになるか」を一緒に考えたりすることで行動は改善されていきます。
ただ「ダメ」「謝りなさい」ではなく、
「なぜいけないのか」という本質を伝え、
「大人に言われたからやめる」ではなく、
「友達が悲しむからやめよう」と自ら思えるようにすることが大切です。
子どもの行動の“なぜ”を考え、寄り添う
子どもの行動には、だいたい理由があります。
・親が一緒に食べてくれないから気を引きたい
・上手に食べられなくて疲れた
・お皿やスプーンがその子の発達に合っていない
本棚から絵本を全て出してしまう
・特定の絵本を探している
・絵本が出しづらい
おもちゃを片付けない
・片付けにくい環境
・片付けの必要性がわからない
集中力がない
・テレビがつけっぱなし
・親が話しかけすぎる
友達を叩く、押す、噛む
・言葉でうまく言えない
・遊びたいのにかかわり方がわからない
椅子に座っていられない、姿勢が悪い
・椅子の高さが合っていない
・足がつかない
話が聞けない
・雑音が耳に入ってしまっている
・話す人の後ろに気になるものがあり集中できない
帽子を被れない、マスクができない
・感覚過敏がある
などなど。
大人から見て「困ること」ばかりに目が向きがちで、ついつい叱りたくなるかもしれませんが、一度ぐっとこらえて、「子どもが“なぜ”をその行動をしたのか」を考えてみましょう。
困っているのは、案外子どものほうかもしれませんよ。
親が育てにくさを感じる要因として、
親の性格や育児志向と子供の性格や資質が異なるというのもよくあります。
たとえば、「せっかちな親」と「マイペースな子ども」、「静かにゆったり過ごすのが好きな親」と「身体を動かす遊びが好きな子ども」等々です。
こういう場合、親から注意されることが増えがちなので、二次的によけい育てにくくなることもあります。
対策としては、子どもの性格や行動の理由を考えたり聞いてあげたりして、親子どちらもできるだけ無理なく過ごせるようすり合わせをしていくと良いですよ。
(たかだ ちかこ 先生)
まとめ
「育てにくい子」と感じるのは、子育てをしていれば多くの方が直面すること。大切なのは、発達障害かどうかではなく、その子にとって必要なかかわり方をすること。そのために、まずは子どもの姿をよく観察し、気持ちに向き合い、寄り添っていくことを心がけましょう。
とはいえ、子どもを理解することはそう簡単なことではありません。悩んで焦ったりイライラしたりして子どもとのかかわりが悪循環になる前に、周りの人や専門家に相談するのも一つの手ですよ。
(文:mamaco/監修:たかだ ちかこ 先生)
※画像はイメージです
[*1]発達障害ナビポータル 発達障害の疫学
[*2]令和元年度 通級による指導実施状況調査結果について
[*3]University of Washington, Babbling babies – responding to one-on-one ‘baby talk’ – master more words, January 6, 2014
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます