【医師監修】基礎体温が低いままでも妊娠できる? 2相に分かれない3つの理由
「妊娠」を意識するようになると基礎体温が身近になります。そんな時、「体温が低いと妊娠しにくい」という話を聞くと気になってしまいます。これは本当なのでしょうか。混同されがちな「低い体温」と「冷え」についても整理していきましょう。
「高温期」「低温期」とホルモンの関係は?
まず、「基礎体温」についておさらいしましょう。基礎体温というのは「安静時の体温」を指すものです。目覚めた直後、専用の体温計(婦人体温計)を用いて口の中の温度を測定します。
生理(月経)の周期が28日の場合、生理から排卵日までの約2週間が低温期(低温相)、その後の2週間が高温期(高温相)になります。低温期と高温期の差は約0.3℃~0.6℃です。基礎体温を測ることで、女性の体をコントロールしている女性ホルモンの働きを確認できます。
低温期はエストロゲンが多く分泌される
低温期とは、基礎体温が低めの期間です。生理周期が28日であれば、生理が始まってからの約2週間が低温期になります。
この時期に分泌される主な女性ホルモンはエストロゲン(卵胞ホルモン)です。このエストロゲンの作用により、低温期の間に子宮の壁(内膜)は厚みを増していきます。また卵巣では卵胞(卵子を包むカプセル)の大きさが増していきます。
十分に卵胞が発育すると、脳の下垂体から分泌されるホルモンの指令で卵胞は破裂し、卵子が子宮に向かって排出されます。これが「排卵」です。排卵をきっかけに基礎体温は上昇します。
高温期はプロゲステロンが多く分泌される
排卵の後、体温が上昇するのは、黄体ホルモン(プロゲステロン)の働きによるものです。
卵子が巣立った後、卵巣に残された卵胞は「黄体」というものに変化し、黄体ホルモンを盛んに分泌するようになります。黄体ホルモンには基礎体温を上昇させたり、子宮の壁(内膜)をふかふかにして受精卵が着床しやすいように準備を整える役割があります。この黄体の寿命が約14日間であるため、高温期も約14日間持続します。
この間に妊娠が成立しない場合は、体温が低下するとともに子宮内膜ははがれ落ち、次の生理となります。
基礎体温はきれいに2相に分かれるもの?
このように基礎体温は、生理のサイクルごとに体内で起こるホルモンバランスの変化や卵巣・子宮の状態を知らせてくれます。
生理周期の中で、基礎体温のグラフが低温期と高温期の2相に分かれていれば、女性ホルモンが正常に分泌され、「排卵がある」といえます。記録をつけてみると、多くの場合、多少はジグザグした感じになりますが、グラフの一番低い点と高い点の間に線をひいてみて、その上下で一定の期間が持続していれば2相に分かれているということです。あまり細かいことにこだわらず、ざっくりと分かれているかどうかをみるようにしましょう。
サンプルの基礎体温表は、28日の生理周期を想定して作られているものが多いですが、生理周期には個人差があり、25日~38日であれば正常範囲です。
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基礎体温のグラフがガタガタで2相に分かれていない場合については、以下の記事で解説しています。
「基礎体温が低いまま」ってどんな状態?
「基礎体温が低いまま」=「2相になっていない」場合は、排卵が起こっていない疑いがあります。無排卵の状態が続くと妊娠できません。思春期や更年期、授乳期 では自然なことですが、妊娠を望む場合は、ホルモン検査や超音波検査、治療を行います。
① 排卵していない「無排卵」の可能性
生理があるにもかかわらず、基礎体温のグラフが2相に分かれず、低い体温が横ばいにずっと続いている場合は、「無排卵」の疑いがあります。
排卵が起こらないと黄体ホルモンが分泌されないため、体温が上昇しません。黄体ホルモンは、妊娠をサポートするホルモンともいわれ、高温期の項で紹介したように子宮内膜を変化させて受精卵が着床しやすい状態に変えるほか 、基礎体温を上昇させる作用もあります。
無排卵の場合、生理不順や生理の量の異常、不正出血が起こることもありますが、生理自体はなくならないことが多いので 無排卵であると自覚することはほとんどありません。
② 病気の影響である場合も
多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群(PCOS)という病気になっている場合も基礎体温表が横ばいになります。排卵が起こらず、卵胞が卵巣の周りにたくさん残ってしまう病気です。
妊娠が可能な年代の女性の約5~8% に発症するといわれます[*1]。妊娠を希望する場合は排卵誘発剤などや肥満している場合は減量などにより治療することになります。
③ 正しく計測されていないケース
基礎体温の測り方を誤っているケースも考えられます。正しく測るためには、一般の体温計ではなく小数点2ケタを計測できる専用の婦人体温計を使います。
「朝起きて体を起こす前に」「婦人体温計を口の中の舌の下に入れて」「毎日だいたい決まった時間に」測るようにします。使用する婦人体温計のタイプ(実測式、予測式)によって計測時間も異なるので、説明書をよく確認してから使用しましょう。
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以下の記事に正しい基礎体温の使い方をまとめています。
妊娠すると体温はどうなるの?
妊娠が成立すると、基礎体温は高温期が持続します。排卵から17日以上高温期が続いている場合は、妊娠の可能性があります。
高い体温が続いているということは、いつもは約14日間で姿を消す黄体が機能を保っていることを示します。妊娠すると、黄体は「妊娠黄体」という状態に変化して黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を続けるため、基礎体温は上昇したままになるのです。
ただ、妊娠12~16週(妊娠4、5ヶ月)ごろになると基礎体温は次第に低下し低温期に戻ります。このころには黄体ホルモンは胎盤から分泌されるようになりますが、胎盤からの黄体ホルモンには体温上昇作用がないとされているからです。
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妊娠初期の基礎体温については、以下の記事で詳しく解説しています。
「冷え症」だと妊娠しにくいって本当?
ここまでに紹介したように、基礎体温が低いままで2相に分かれず、無排卵の状態が続いていると考えられる場合、妊娠するのは困難です。ただ、女性によくある「冷え症」でも妊娠しにくくなるのでしょうか? 実は、「体温が低いこと」と「冷え症」であることは意味が違います。整理しながら考えていきましょう。
「冷え症=体温が低い」というわけではない
私たちの体には、常に体温を一定に保つ仕組み(自律神経)が備わっており 、個人差はありますが、体内の中心部(深部)は多くの人で約37℃に維持されています。
一方で、同じ気温でも寒さの感じ方には個人差があります。「人が寒さを感じない温度でも手足などが冷えてつらいと感じること」を「冷え症」と呼びます。冷え症では、 必ずしも実際の体温低下を伴ったり、触ると体が冷たくなっているわけでありません。
体の深部体温が実際に35℃以下になることを「低体温症」と言いますが、これはたとえば雪山などで寒冷な環境にさらされ続けた結果起こるもので、命に関わる状態です。いわゆる「冷え症」と「低体温症」は全く異なるものです。
ただ「手足が冷たくてつらい」と感じている女性も多いことでしょう。平成28年国民生活基礎調査によると、女性の約1%が健康上、最も気になる症状として「手足が冷える」と回答しています[*2]。こうした症状のことを漢方では「冷え症」とし、様々な病気や症状に関係すると考えられています。「冷え症」は、筋肉がこわばって肩凝りや腰痛の原因にもなるとされています。
とはいえ、子宮は体内の奥深くにある臓器で、周囲には太い血管も通っており「冷え症だから子宮も冷える」ということはありませんし、「冷え症だと妊娠しにくい」という説に科学的な根拠があるわけでもありません。
基礎体温の低温期と「冷え」も別物
体温または基礎体温が低いと冷えやすいのでしょうか? これは必ずしもイコールではありません。
体温は数値で表すことができますが、「冷え」は長年、自覚症状とされてきたからです。東洋医学では冷えは未病(病気の一歩手前の状態)として重要視 されますが、西洋医学でははっきりとした診断基準がありません。
ただ、運動で筋肉をつけたり、食生活を工夫することなどが、冷えの改善につながるとされています。
まとめ
基礎体温は⼥性の体のホルモンバランスを反映しています。大切なのはざっくりと低温期と高温期の2相に分かれていることです。基礎体温がフラットな横ばい状態だと正常に排卵している可能性が低く妊娠することは困難です。妊娠を希望している「妊活中」の女性は、できるだけ日頃から基礎体温を計測するようにし、ホルモン異常に気付きやすい環境を整えると良いでしょう。
(文:萩原明子/毎日新聞出版MMJ編集部、監修:星真一先生)
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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