倍速視聴が当たり前の時代? 子どもたちの倍速視聴の現状と親ができること #親と子のネットリテラシー入門 Vol.31
私たち親世代は、子どものデジタル機器の付き合い方や、ITリテラシーの教え方にどう向き合ったらよいのでしょうか? ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーとして活躍し、自身も二児の母である鈴木朋子さんに教えてもらいます。今回のテーマは、「子どもの倍速・ショート動画視聴」についてです。
■倍速視聴・ショート動画の流行が子どもたちにもたらすもの
タイパ主義のZ世代は動画を倍速視聴する――そんな話を聞いたことはないでしょうか。タイパ主義とは、タイムパフォーマンス主義、すなわち時間対効果を重視することを指します。つまり、時間効率を上げるために動画を1.5倍速や2倍速などで見る若者が増えていると言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
クロス・マーケティングが2024年3月に発表した「動画の倍速視聴に関する調査(2024年)」によると、20代~60代の男女で「倍速視聴経験あり」と答えた人は、47%に上るそうです。これは、3年前の2021年に行った調査結果の34.4%よりも大きく上回る数値です。年代別に見ても、20~30代の倍速視聴経験率は約4割から6割ですが、50~60代でも約3~4割となっており、もはや倍速視聴はZ世代だけの視聴スタイルではないことがわかります。
子育てや仕事に追われる皆さんも、子どもが寝ている間に倍速で動画を視聴した経験があるのではないでしょうか。テレビで見られなくても、スマホを使って見逃し配信サービスで連続ドラマを見たり、動画配信サービスで映画を見たりできますね。
数年前は「オンライン講義は倍速で見るけど、ドラマは倍速にしない」という人も多かったのですが、今やドラマも倍速で視聴する人が増えているようです。倍速で視聴すること自体に慣れてきたのかもしれません。
■小中学生も動画を倍速視聴している
倍速視聴が世代を超えて広がっているということは、動画配信サービスを使いこなしている子どもたちも倍速視聴していると考えられます。調査を見てみましょう。
ニフティキッズが2024年4月に発表した「エンタメコンテンツに関するアンケート調査」によると、小中学生の6割が動画を倍速にして見たことがあると答えています。この数値は、小学生と中学生でほぼ変わらないため、倍速視聴は小学生のうちから浸透しているということでしょう。
倍速視聴しているコンテンツに特長はあるのでしょうか。ニフティキッズの調査では、「YouTube動画」が69%でトップ、続いて「アニメ」、「バラエティ」、「国内ドラマ」の順になっています。YouTubeは個人で見る機会が多いことや、倍速に切り替える操作が簡単という理由がありそうです。
動画を倍速で視聴することが当たり前になると、オンライン授業のアーカイブ動画や塾が公開している講義も当然倍速で視聴するようになります。
アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のディロン・マーフィー氏らが行った調査によると、「授業動画は2倍速で見ても理解度は変わらない」という研究結果が出たとのこと。とはいえ、子どもが授業を倍速で見ていたら、きちんと頭に入っているのか、心配になりますね。
■スピードと量が加速する世の中で子どもを育むには
今の子どもたちは、テレビ、スマホ、タブレットなど、スクリーンを見る時間が格段に増えています。長時間の視聴で視力が落ちたり、寝不足になって集中力を欠いたりといった悪影響も出てきています。
また、これまではテレビがメインだったので、「Eテレをつける」「夜の番組は見せない」というように、チャンネルや時間帯でコンテンツを絞り込むことができました。しかし、ネットの普及により、子どもにリスクがあると思われる動画がいつ目に飛び込んでくるのかわからなくなるという、コンテンツ由来の問題があります。
そして、倍速視聴だけでなく、コンテンツ自体がスピード重視になっていることも気になります。数秒~数分で楽しめるショート動画が流行し、長い動画から面白い箇所をピックアップした「切り抜き動画」も人気があります。楽曲もショート動画に合わせて、イントロが短く、インパクトのあるサビが繰り返される短い曲が流行るようになりました。
ショート動画だからといって、視聴時間が短くなるわけではありません。LINEリサーチによると、ショート動画を「ほぼ毎日見ている」人の割合は、10代で7割を超えているそうです。しかも、10代は「1日に、1時間以上」が4割弱でもっとも多いとのこと。数秒で飛ばす動画もあるため、いったい何本の動画を見ているのか、想像できませんね。
刺激的なコンテンツがものすごい速さで目の前に飛び込んできて、受けとる情報の量が増えています。この状況が子どもたちの脳や成長にどのような影響を与えていくのかはまだわかりません。
でも、おそらくこのタイパ主義の流れは定着していくと思います。親が幼い子どもにできることは、やはり長時間の視聴を防ぎ、頭を休めてあげることでしょう。動画を見たあとは外遊びをしたり、おもちゃでごっこ遊びをするなど、ゆっくりした時間を過ごしてください。通常のコミュニケーションでは、相手の発言を待ったり、表情をくみ取る時間が必要です。そうしたことは、親やお友だちとの交流で学んでいけると思います。
小学生以上になると、自分で操作できるようになり、倍速視聴も増えていくと思います。自分専用のスマホを持つと、ショート動画の視聴が止まらず、脳が興奮状態になるかもしれません。できれば就寝前には早めに視聴をやめ、リラックスして質の良い眠りを取れるようにしてあげたいですね。
まとめ
スマホやタブレットと適切な付き合いをするには、フィルタリングを上手に利用することが大切です。また、動画を見るときはリビングのテレビで一緒に見ることを約束すると、親子のコミュニケーションが活発になり、受け身だけの視聴を避けられます。ネットのコンテンツを見るだけでなく人間同士の交流も欠かさないーー基本的なことですが、大切なことだと思います。
(文:鈴木朋子、編集:マイナビ子育て編集部)