【医師監修】つわりが終わらないけれど大丈夫? 原因や病気の可能性も解説!
辛いつわりがなかなか終わらないと、苦しいだけでなく、いったいいつまで続くのか不安になってしまいますね。つわりが長引く場合は、何か原因があるのでしょうか? つわりに似た症状を起こす可能性がある別の病気とともに解説します。
つわりが終わらないのはなぜ? つわりの基礎知識
つわりについて、まず基本的なことを確認しましょう。
つわりはどうして起こるの?
妊娠すると、約50~80%の妊婦さんがつわりに悩まされます[*1]。とはいえ、症状やその程度は個人差があって一概には言えません。
ただ、一般的につわりの症状を訴えることが多いのは初産婦である一方、重症化するのは経産婦に多いと言われています。
なお、そもそも「なぜつわりが起こるのか」、その原因はまだはっきりとは明らかにされていません。
次のような要因がいくつか重なることで、症状が引き起こされるのではないかと考えられています。
ホルモンバランスの変化の影響
妊娠によって女性の体では、ホルモンバランスが大きく変わります。そのうち、分泌量が増えたホルモンが脳の「おう吐中枢」を刺激すると、「中枢性(ちゅうすうせい)おう吐」を起こすため、吐き気や嘔吐といった症状が現れることがあるようです。
特に、「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンの分泌が盛んな時期に症状が出やすいため、つわりの発症にはこのホルモンが大きく関与していると考えられています。
ただ、これだけでなく、甲状腺ホルモンやエストロゲン(卵胞ホルモン)などいくつかのホルモンが妊娠によって変化することも関係しているのではないかと考えられています。
プロゲステロンと消化機能低下の影響
同様に妊娠によって増えるホルモンには「プロゲステロン(黄体ホルモン)」もありますが、この作用で消化管を動かす平滑筋がゆるむことによる影響もあります。それにより消化機能の低下が起こると、吐き気やおう吐につながると言われています。
精神的ストレスの影響
妊娠が分かると、妊娠の継続や出産、その後の生活について不安を感じたり、仕事や家族の問題などが具体化して精神的ストレスとなる場合があります。またつわりの症状自体が、妊婦さんの心に大きなストレスをかけることもあります。
精神的ストレスが強過ぎる妊婦さんは、つわりが重症化して治療が必要になる病気「妊娠悪阻(にんしんおそ)」になりやすいことがわかっています[*2]。
つわりはいつから始まるの?
つわりは、普通いつから起こるものなのでしょうか? 個人差はあるものの、一般的には、「妊娠5〜6週ごろ」から起こることが多いと言われています[*1]。
つわりが終わる時期にも個人差がある
つわりはピークの時期や終わる時期も個人差が大きいものです。
ただ、一般的には症状のピークは「妊娠8~10週ごろ」で、その後だんだんと治まっていき、妊娠12〜16週ごろまでに自然になくなることが多いと言われています [*3, 4]。
実はつわりじゃない? つわり以外の原因
妊娠中につわりと似た症状が出ていても、実はその原因がつわりではない場合もあります。
(1)胃酸過多
精神的・肉体的ストレスや暴飲暴食などが原因で、胃酸が過剰に分泌されるようになることがあります。これは「胃酸過多」と呼ばれる状態です。
このとき、やはりストレスなどの影響で、胃の粘膜を守る粘液の分泌量は逆に減るので、胃液が胃の粘膜に炎症を起こし、「胸やけ」や「胃のムカムカ」などの症状を引き起こすことがあります。
(2)逆流性食道炎
消化機能の低下にも関係しているプロゲステロンの影響で、食道と胃の境目にある「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」という筋肉がゆるみ、胃の内容物が逆流しやすくなって起こります。
逆流性食道炎になると、「吐き気」や「胸やけ」のほか、「のどの痛み」や口元まで酸っぱい液がこみ上げる「呑酸(どんさん)」という症状も多くみられます。
(3)妊娠悪阻
つわりが悪化し、「妊娠悪阻」と診断されると治療が必要になります。この病気はすべての妊婦さんのうち、約0.5〜2%にみられます[*5]。
妊娠悪阻になると基本的に入院しての治療が必要になります。妊娠悪阻はいわばつわりが重症化したもので、はっきり区別できるものではありませんが、医療機関での治療が必要になるという面で、通常のつわりとは区別して考えたほうがよい病気でしょう。
つわりが悪化し、次のような症状がみられるようになった場合は、すぐに産科に連絡し、指示をもらってください。
・1日に何度も吐く
・食事も水分もとれない
・体重が急激に減った(元の体重の5%以上減)
・尿の量が減っている
妊娠悪阻で脱水が進むと血液の循環に問題が生じ、肝機能や腎機能に障害を起こすことがあります。また、栄養状態が著しく悪くなると代謝の異常や、胸水、腹水(胸やお腹に水が溜まる)の症状が出て、意識障害など大変危険な状態につながることもあるため、早期発見が大切です。
「体重減少は『5%』という数値だけを気にし過ぎないでください。減少率はあくまで目安です。もともとの体格によって体への影響は違うので、特にもともと痩せている人の場合はこれより体重減少が少なくても臨機応変に主治医に相談しましょう。
妊娠悪阻と診断された場合は、脱水や栄養状態、体重の回復をめざし1週間程度は入院するのが一般的です」
このほか、感染症や脳、耳、目の病気などによってつわりに似た症状が起こることもあります。つわりのような症状が長引いたり、著しく悪化していると感じたり、ほかにも心配な症状を併発して不安な場合などは、すぐに産科の主治医に連絡し、相談しましょう。
知っておきたいつわりの対処法
最後に、つわりに対する基本的な対処法をおさらいしておきましょう。
食べられるものを食べられるだけ食べる
食事が十分にとれない時期が長引くと、赤ちゃんの成長に影響しないか心配ですね。しかし、妊娠初期の赤ちゃんが必要な栄養はほんの少しだけ。ですから心配することはありません。
つわりで辛いときに赤ちゃんの分も食べなければと思うと余計ストレスが溜まってしまうので、この時期はできるだけおおらかな気持ちで、「食べられるものを食べられるときに、食べられる分だけ」食べていきましょう。
なお、人によって違いますが、「冷たいもの」や「においの少ないもの」は、つわりの時期でも比較的食べやすいことが多いようです。自分は「何が食べやすいのか」を探し、食べられるものを口にすれば大丈夫です。
食べる回数を増やす
妊娠すると消化機能が低下しますが、一度に大量に食べるより、小分けにして食べた方が胃腸に負担をかけません。
1回の量を2、3食分にしてとる「分割食」にしたり、食事量を抑え、おやつの時間に軽食をとるなど工夫してみましょう。
ビタミンB6を摂取する
ビタミンB6はアメリカではつわりが重症化して治療が必要になったとき、症状をやわらげる治療薬として処方されるそうです。なぜビタミンB6がつわり症状の軽減に効果的なのか詳しいことはわかっていないそうですが、食事の際、これを多く含む食材を積極的に摂るようにすると、症状の改善に役立つかもしれません。
ビタミンB6は、バナナ、トマトジュース、アボカド、ブロッコリー、モロヘイヤ、プルーン(乾)、いちじく(乾)、干しぶどう(乾)などに豊富に含まれています。
まとめ
つわりは、一般的には妊娠12〜16週ごろまでに症状が消えていくことが多いとされています。ただ、つわりがある妊婦さんは多いものの、つわりがない妊婦さんもいますし、つわりのある人の中でも症状の程度は個人差が大きいものです。ですから、つわりの治まる時期についても、一概には言えません。また、つわりと思っていた症状が、実は別の病気によって引き起こされることもあります。つわりがあまりに長引いて不安な場合や体重が減ったり、水分が摂れないほど症状がひどい場合は、かかりつけの産科に連絡し、主治医に相談するようにしてくださいね。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1]「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア),p86,87
[*2]「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
[*3]「NEWエッセンシャル 産科学・産婦人科学 第3版」医歯薬出版株式会社 p305
[*4]沖縄県:つわりのあるママへ
[*5]産婦人科診療ガイドライン―産科編2020,p108
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます