妊娠 妊娠
2021年01月13日 16:21 更新

【医師監修】葉酸の摂り過ぎはダメ? 過剰摂取したら悪影響はあるの?

葉酸は妊娠中に必要と言われている栄養素のひとつで、食事に加えサプリメントからの摂取も推奨されています。ただ、何事もやりすぎは禁物で、妊娠中はとくにバランスの良い栄養摂取が大切です。ここでは葉酸の働きや摂り方だけでなく、多く摂り過ぎた場合に心配されることも紹介します。

葉酸とは? なぜ妊娠中に大切なの?

葉酸サプリのイメージ画像
Lazy dummy

葉酸は、たんぱく質や細胞を作る際に必要なDNAなどの核酸を合成するために大切な役割を担う栄養素です。妊娠していないときも体の中で重要な働きを果たしますが、妊娠計画中~妊娠初期には特に意識して摂取する必要があります。

葉酸とはどんな栄養素?

葉酸は水溶性(水に溶けやすい)ビタミンである、ビタミンB群の一種です。緑黄色野菜、果物などのほか、レバーやウニといった動物性食品にも多く含まれています。

摂取した葉酸は体内にためておけないため、毎日摂取する必要があり、成人男女の必要摂取量は1日あたり200μg[*1]とされています。

葉酸不足になると、どんなデメリットがある?

葉酸は体内で赤血球の形成や細胞増殖に必要なDNA合成などに関わっています。そのため不足すると、血液内に未熟な赤血球(巨赤芽球)ができて貧血をおこしてしまったり、場合によっては神経障害などを生じたりすることがあります。

また近年研究が進み、葉酸には血管で活性酸素を発生させるアミノ酸の一種「ホモシステイン」を減少させる効果があることがわかってきました。葉酸が不足すると血管内のホモシステインが減らず、それが動脈硬化のリスクを高めるともいわれています。

妊娠期における葉酸不足のリスクとしては、胎児の神経管閉鎖障害があります。神経管閉鎖障害は本来、成長過程で閉じるはずの神経管が、なんらかの要因により閉鎖できなかったために起こる先天異常です。

日本では、厚生省が2000年に葉酸サプリメントの摂取を国民へ勧告しましたが[*2]、神経管閉鎖障害の赤ちゃんが生まれる発生率は、2000年以降、10,000件当たり 4.7~6.2の間でほぼ横這いの状況で、これは諸外国より高い頻度となっています(うち、無脳症は出生前診断の普及により減少しています)。つまり、毎年、全国で年間数百人の神経管閉鎖障害の赤ちゃんが生まれています[*3]。

神経管閉鎖障害は葉酸不足だけが原因ではありませんが、葉酸を適切に摂取することで、その発症リスクを下げられると考えられています。

妊婦はいつから葉酸サプリを摂取したほうがいいの?

胎児の神経管は多くのお母さんが妊娠に気づいていない、とても早い段階で出来上がります。

神経管閉鎖障害を含む赤ちゃんの先天異常が多い期間は、妊娠直後から妊娠10週(妊娠3ヶ月の後半)ごろまで[*2]といわれており、この時期に十分な量の葉酸が体にある状態にするためには「妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月まで」[*4]の間に、食事からに加え、サプリメントなどでも葉酸を摂取することが重要になってきます。

妊娠中の栄養は、基本的に食事から得ることが推奨されていますが、さきほど2000年に厚生省の勧告がなされたと書いた通り、葉酸は妊娠期間中、いつもの食事以外にサプリメントなどからの摂取も勧められている、珍しい栄養素です。

妊活中や妊娠初期は、成人男女の1日あたりの摂取推奨量である240μg[*1]を食事から摂取するのに加え、サプリメントなどから+400μg/日、合計で1日あたり640μg[*4]の摂取を目指すとよいでしょう。

また、妊娠4ヶ月以降は、食事から480μg/日、授乳中は340μg/日の葉酸を摂取することが推奨されています[*4]。

なお、食事内容によって左右されるので個人差が大きいですが、2018年の国民健康・栄養調査によると、調査対象の女性は一日に平均281μgの葉酸を摂取していたとされています[*5]。

効果的な葉酸サプリの摂取方法

葉酸は毎日補充することが大切です。そのため、サプリメントであれば摂取を負担に感じないよう、例えば小さめの粒で1回に飲む粒数が数えやすいもの、飲むタイミングがわかりやすく、飲み忘れしにくいものなどを選ぶと、継続的な摂取がしやすくなります。

また、サプリメント以外に、葉酸を添加した食品や栄養補助食品を利用するのも、ひとつの方法です。葉酸が添加された米やパン、たまごのほか、飲料や菓子などをいつもの食事に取り入れることで、葉酸の摂取量を効率的に増やすことが可能です。

ただし、サプリメントでも栄養補助食品でも葉酸をどれくらい含むのか、その量が明示されているものを選ぶようにしましょう。「マルチビタミン」のように複数の栄養素が加えられたものは葉酸そのものの含有量がはっきりせず、必要な量をしっかり摂取できているかどうか、わかりにくいことがあります。また、ビタミンAなど別の成分の摂りすぎにつながることもあります。

効果的に葉酸を摂取するために、サプリメントなどでどれくらい補っているのか、自分できちんと把握することも大切といえます。

葉酸摂取のポイント・注意点

野菜サラダを食べる妊婦
Lazy dummy

細胞分裂の促進や造血作用のある重要な栄養素「葉酸」。効率的に身体に取り入れるには、どのようなことを心がければいいのでしょうか。注意しておきたいポイントを解説します。

基本は食事から。でも食事だけでは十分摂取できない分をサプリで補う

葉酸が食事以外にサプリメントなどからの摂取も推奨されているのは、食べ物に含まれる葉酸だけでは量が不十分になることがあるからです。

じつは食べ物に含まれる葉酸と、サプリメントなどに含まれる人工の葉酸とでは、体内で利用できる割合に差があり、食べ物に含まれる葉酸の利用効率はサプリメントなどに含まれる人工のものの50%程度とされています[*1]。

食品に含まれる葉酸は、体内で利用可能な形になるまでに、消化・吸収などさまざまな段階をへる必要があります。その過程で利用効率が下がってしまうのです。

ただし、葉酸のサプリメントまたは葉酸が強化された食品かを十分に摂取しているからといって食事性葉酸を含む食品を摂取しなくてよいという意味ではありません。食事とサプリメントとを上手に組み合わせて、効率の良い摂取を心掛けましょう。

葉酸の栄養素を逃してしまう食べ方とは?

葉酸には熱に弱いという性質があります。それゆえ食材を調理する際、加熱によって葉酸が分解され、失われてしまうことも少なくありません。葉酸を多く含む食材を調理する場合は、加熱のしすぎに注意しましょう。

また、水溶性ビタミンである葉酸は、ゆで汁の中に溶け出してしまうこともあります。例えば、葉酸を多く含むことで知られるほうれん草を、おひたしにして食べたいこともあるでしょう。しかし、おひたしは葉酸の摂取効率を考えると、良い食べ方とは言いにくい面があります。加熱により葉酸が分解された上、ゆで汁の中に栄養素の多くが溶け出してしまう可能性もあるからです。

おひたしよりは、ゆでずに加熱する蒸し物や炒め物のほか、スープやシチュー、カレーなど、汁も一緒に食せる料理にするのがおすすめです。

葉酸も過剰摂取したら悪影響はあるの?

葉酸サプリを摂取する妊婦
Lazy dummy

葉酸が不足した場合のリスクについてはさまざまなところで紹介されていますが、摂り過ぎた場合についてはあまり触れられていないかもしれません。葉酸も過剰摂取したら何か悪影響はあるのでしょうか。

亜鉛不足、葉酸過敏症を引き起こしたり、ビタミンB12欠乏症の診断を困難にする可能性が

葉酸を摂り過ぎるとどうなるかというと、例えば「亜鉛」の不足を引き起こすことが考えられます。亜鉛はホルモンの合成や分泌の調節、DNAやたんぱく質の合成、免疫反応の調節などにかかわる栄養素です。葉酸を摂り過ぎると、小腸からの亜鉛の吸収を抑制する可能性があります。

ただし、亜鉛吸収の阻害作用については、1日あたり5~15 mg(5,000~15,000μg)程度の葉酸摂取であれば影響はないという報告[*6]もあります。

また、葉酸の摂り過ぎが「葉酸過敏症」という病気につながることもあります。葉酸過敏症の主な症状は発熱、じんましん、皮膚のかゆみや発赤(紅斑)、呼吸障害など。サプリメントなどで葉酸を過剰に摂取すると(1,000~10,000μg[*7])、発症する可能性があるといわれています。

ほかに、葉酸を摂り過ぎた結果、同じビタミンB群であるビタミンB12の不足に気付けず、ビタミンB12欠乏症の診断が困難になることもあります。

ビタミンB12は葉酸と同じく、赤血球の形成などに関わる栄養素です。不足すると貧血、疲労感、衰弱、便秘、食欲不振、体重減少といった症状が現れるほか、手足のしびれや痛みなど神経の損傷(神経障害)も引き起こす場合があります。

これらのリスクを避けるためにも、葉酸を摂取する際は適切な量を心がけ、摂り過ぎは控えましょう。

葉酸を過剰摂取しないためにできること

野菜を摂取する妊婦
Lazy dummy

葉酸を過剰摂取しないためには、どのような点に気を付けておけばよいのでしょう。

1日の葉酸摂取量の上限とは

厚生労働省では、「いつもの食事」以外にサプリメントなどで摂取する人工の葉酸(モノグルタミン酸型葉酸)の量が、1 mg (=1,000μg) を超えないようにという通知を出し、葉酸の過剰摂取に注意を促しています[*3]。

ただし、中にはそれ以上の摂取を医師に勧められる人もいます。

欧米では妊婦さん自身やその家族、および胎児の父親や家族に神経管閉鎖障害の人がいる人、糖尿病の人、てんかんの薬を飲んでいる人、BMI(Body Mass Index)が30以上の人などは神経管閉鎖障害のリスクが高いため、通常の10倍程度の葉酸の摂取を推奨されることもあるようです[*8, 9]。

日本でも上記のようなケースに当てはまる女性は、妊娠前からかかりつけ医と、葉酸の補充について相談しておくとよいでしょう。決して自己判断はせず、必ず医師に相談してください 。

サプリメント摂取で気を付けたいこと

最初にもお伝えしましたが、葉酸は妊活中・妊娠初期は、いつもの食事以外にサプリメントからの摂取も勧められている、珍しい栄養素です。

しかしそれは「サプリメントで摂取していれば、食事で葉酸を摂取しなくていい」ということではありません。ここまでで紹介したとおり、妊娠中の栄養摂取は食事からを基本に、サプリメントはあくまで補助的役割であることを理解しておきましょう。

また、サプリメントは形状によって過剰摂取が起こりがちなことも注意しましょう。サプリメントはおもに錠剤やカプセルといった形状ですが、ラムネやグミなどのお菓子や米やパン類、たまご、シリアル、乳製品など食品に葉酸を添加したものもあります。

前者の場合、味や香りがほとんどなく、口にしている感覚も少ないため、つい飲み過ぎてしまい、過剰摂取につながるおそれがあります。一方、後者はある程度の大きさや香り、味などにより「食べている」感覚があるため満腹感を得やすく、結果的に摂り過ぎを防ぐ効果が期待できます。

いずれにしても摂り過ぎにならないよう、利用しているサプリメントや加工食品に含まれる葉酸の量を把握し、1日あたりの摂取量が適正な量になるよう、気を付けましょう。

まとめ

葉酸を摂るときは、食事とサプリを組み合わせて、適切な摂取を心掛けていきましょう。また「おなかの赤ちゃんによい」「妊娠中でも安心」と謳ったサプリメントや加工食品であっても、利用する前に自身で含まれている栄養素の種類や量を把握しておくことが大切です。

(文:山本尚恵/監修:浅野仁覚先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
[*2]厚生労働省「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性 等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」
[*3]近藤厚生ら:神経管閉鎖障害:葉酸摂取による予防, Vitamins (Japan), 92 (1), 1-17, 2018.
[*4]国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 妊娠中のサプリメントの利用について (Ver.191126)
[*5]厚生労働省:平成30年 国民健康・栄養調査
[*6]神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について|平成12年12月28日 厚生省児童家庭局母子保健課
[*7]「健康食品」の安全性・有効性情報|国立健康・栄養研究所 食品保健機能研究部 健康食品情報研究室
[*8]国民保健サービス(NHS, 英国):Why do I need folic acid in pregnancy?
[*9]英国王立産婦人科医協会(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists):Healthy eating and vitamin supplements in pregnancy

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

PICK UP -PR-

関連記事 RELATED ARTICLE

新着記事 LATEST ARTICLE

PICK UP -PR-