
【医師解説】おねしょ=夜尿症? 夜尿症の原因や受診の目安、治療方法などを解説
お子さんのおねしょがなくならなくて心配していませんか? もしかしたら体に原因がある夜尿症かもしれません。夜尿症の特徴、受診の目安などを沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの川合志奈先生にお話を伺いました。
夜尿症とは

夜尿症の場合、その文字にある通り、眠っている最中におしっこをしてしまいます。でもたまにおねしょすることと夜尿症はどのように違うのでしょうか?
「5歳を過ぎて月1回以上のおねしょ」が夜尿症
小さいお子さんがおむつからパンツに替わる段階で、寝ている間にもらしてしまうことはあります。どのような場合、夜尿症と診断されるのでしょうか?
川合先生「5歳を過ぎてから、月に1回以上、睡眠中におもらしをする」のが夜尿症とされています。これは国際小児禁制学会(International Children‘s Continence Society:ICCS)が定めた定義です[*1]。
夜尿する時間帯はまちまち
夜尿症が起こるタイミングは、寝入りばなや明け方など決まった時間に起こるのでしょうか?
川合先生 夜尿する時間は定まっていません。ただ、治るにつれて夜尿する時間がだんだん明け方に近づいていくことは多いです。
だから、寝ついてすぐにおねしょしている子よりも、明け方におねしょしてしまう子の方が早く治るだろうな、と私は思っています。
「4歳以下」や「起きていてもらす」のは夜尿症ではない
5歳未満であれば、「月に1回以上、睡眠中におもらしをする」としても、夜尿症とは言えないのでしょうか?
川合先生 そうなんです。「ほとんどの子が起きている間おもらしをしなくなるのが4歳半で、夜尿をしなくなるのは5歳が多い」というスウェーデンの研究[*2]が根拠になっています。
ちなみに、お昼寝している間におしっこしてしまうのも夜尿症です。
ちなみに、夜の睡眠中はおもらしをしないけれど、お昼寝中だけおもらしをしてしまう子は夜尿症に当たりますか?
川合先生 定義の上ではその場合も夜尿症になりますが、そういう子はあまりいません。
夜尿症の子はまず、夜の睡眠中にもれます。昼間ももらしている場合、お昼寝中だけなのか、目が覚めていて動き回っている最中にももれるのかでまた変わります。
夜の睡眠中だけでなくお昼寝中にもおもらしがあれば「夜尿症」、目が覚めて動き回っている時にももれるなら「昼間尿失禁」ということになります。
夜尿症になる子はどのくらい多い?

夜尿症になる子は全体のどのくらいいるのでしょうか?
川合先生 5歳以上15歳までのお子さんの6.4%が夜尿症だと言われています[*3]。5歳で16%、9歳で3%という海外の研究結果もあります。
夜尿症の頻度 [*4]

小学校のクラスに1人はいるだろう、ということでしょうか?
川合先生 そうですね、夜尿症が一番問題になるのは、学校で自然教室や修学旅行などの宿泊体験がある小学5・6年生です。その学年くらいになると、1クラスに1~2人はいます。学校の先生も最近はそれを認識されているようです。
夜尿症の原因って?

夜尿症が起こる子、起こらない子がいるのはなぜでしょうか? おねしょをした子を叱ってしまっても治りません。まずはどんな原因から起こるのか知っておきましょう。
おしっこの機能の正常な発達
ほとんどの子が起きている間おもらしをしなくなるのが4歳半で、夜尿をしなくなるのは5歳が多い、というお話がありましたが、おしっこの機能はどんなふうに変わっていくのでしょうか?
川合先生 0~1歳の頃は、反射としてちょろちょろとおしっこをします。2歳になると、トイレに連れていかれておしっこができる子が増えてきます。自分からトイレに行っておしっこするようになっていくのが3歳。そして昼間おもらしをしなくなる子が多いのが4歳で、5歳には夜におねしょしない子が多くなります [*5]。
排尿機能の発達

夜寝てる間におしっこしなくなる仕組み
5歳頃から夜のおねしょがなくなるのは、なぜなのでしょうか。
川合先生 そもそも、おしっこがもれるのは「膀胱の中に貯められるおしっこの量」よりも「作られたおしっこの量」の方が多くなるからです。
成長に伴って、おしっこを作るのを抑える「抗利尿ホルモン」が眠っている最中に分泌されて、睡眠中に作られるおしっこの量が減るようになります。また、寝ている間に膀胱の中に貯められるおしっこの量が増えます。
そのためおしっこをもらさないで、膀胱の中に貯めたままで寝られるようになるんです。さらにおしっこが膀胱にいっぱいたまると、起きられるようにもなります [*5]。
睡眠中もおしっこが普通に作られてしまう夜尿症
夜尿症のお子さんの体の中で、睡眠中もおしっこがたくさん作られているのはなぜでしょうか?
川合先生 抗利尿ホルモンの分泌が少ないのが主な原因と考えられています [*5]。
寝る前にたくさん水を飲んでいたり、神経発達や脳機能に原因がある場合もあります。
どちらにしても、「睡眠中に作られるおしっこの量」が「膀胱の中に貯められるおしっこの量」よりも多くて、睡眠中にもれることになります。
しつけや保護者の方の育て方、お子さんの性格が原因ではないので、お子さんをひどく叱ったり保護者の方が育て方などと悩んだりしないでください。
夜尿症の遺伝について
ママやパパが子どもの頃に夜尿症だと、お子さんも夜尿症になりやすいのでしょうか?
川合先生 「両親のどちらかに夜尿症の既往があれば、夜尿症になったことのない両親を持つよりも、5~7倍夜尿症になりやすい」とある研究で報告されています。「両親2人ともが夜尿症と診断されたことがあれば、11倍夜尿症になりやすい」とも言われています [*6]。
では兄弟姉妹が夜尿症だったら、他の子も夜尿症になりやすいというのもあるのでしょうか。
川合先生 一卵性双生児の場合は46%、二卵性双生児だと2%が兄弟姉妹で夜尿症になるという研究結果があります [*7]。
ちなみに「これはおねしょに関係しているのでは?」といわれている遺伝子はあるのですが [*8,9,10]、まだ確実ではなく、兄弟でも1人しか夜尿症ではないご家庭もあるので、「夜尿症が必ず遺伝する」ということではありません。もしお父さんやお母さんが子どもの頃に夜尿症と診断されたことがあっても、自分やお互いを責めるのではなく、治るんだと思って治療に取り組んでほしいですね。
病院に行く目安って?

夜尿症かどうか知るには、まずは医療機関で診断してもらう必要があります。どんな段階で受診すればいいのでしょうか?
「5歳以上・月に1回以上」おねしょがある
夜尿症と診断されないお子さんでも、夜におねしょをすることはあります。どのくらいで医療機関で診てもらうといいのでしょうか。
川合先生 夜尿症の定義は「5歳を過ぎてから、月に1回以上、睡眠中におもらしをする」こと。これに当てはまる場合は、お子さんの生活の質向上のためにも医療機関で相談してみてはいかがでしょうか。
まずはおねしょの頻度を記録して、月に1回以上のおねしょが何カ月も続いているかどうか確認するのがおすすめです。
「親が困っている」ということも受診の動機に
川合先生 また、夜尿症は、夜尿症のお子さんだけでなく、お世話をしているご家族にもつらいものです。適切な治療を受けることで、そうしたつらさを改善することができます。
本人はもちろん、保護者の方が困った時も受診するタイミングです。
どうやって治療するの?

夜尿症の治療には「生活指導」「薬物療法」「行動療法」などがあります。川合先生が行われている治療方法を伺いました。
生活指導|飲水量などをコントロール
生活指導としてはどんなものがあるのでしょうか?
川合先生 まず、寝る前の飲食を避けます。
保護者の方から「寝る前にのどが渇いたと言って飲んでしまう」とよく聞きますが、その場合も昼間飲んでいないせいでのどの粘膜が乾いている可能性があります。できるだけ昼間に飲むといいですね。
なお、夜尿症に生活指導のみ、というのはそれほど効果がないのではないか、という説 [*11] も出てきていますので、私は治療を始める時に、生活指導のみで経過観察するか、同時に薬物治療やアラーム療法も始めるかなどを患者さん・保護者の方と相談することにしています。
薬物療法|抗利尿ホルモン剤の投与
生活指導以外の治療法にはどんなものがありますか??
川合先生 世界の潮流としては、ミニリンメルト(一般名:デスモプレシン酢酸塩水和物)の投与とアラーム療法の2つが主な治療方法です [*3]。私はミニリンメルトを投与することが多いです。
ミニリンメルトはどんなお薬ですか?
川合先生 ミニリンメルトは抗利尿ホルモン剤です。寝る30分~1時間前に飲みます。
ほとんどのお子さんは、成長とともに、寝ると抗利尿ホルモンが出るようになるため、夜中のおもらしはなくなりますが、夜尿症のお子さんは、抗利尿ホルモンの分泌が未熟で足りていないと言われています。
毎晩ミニリンメルトを飲むことで、寝ている間に体の中で作られるおしっこの量が減っていき、おねしょをしなくなります。
行動療法|夜間アラーム療法
川合先生 アラーム療法では、毎晩おしっこした瞬間に鳴るアラームを装着して寝ます。
お子さんはそのまま眠っていることが多いので、保護者の方がアラームを止めてお子さんを起こし、残りのおしっこをトイレでさせて、着替えてからアラームははずしたまま再び寝ます。
それを3カ月、毎晩続けます [*12]。
たいへんそうですね……。なぜその方法が効果的なのでしょうか?
川合先生 朝までおしっこをためられるようになって治っていきます [*13,14]。
これは推測ですが、おそらく起こされることは体にとって嫌なことなので、「嫌なこと」と「夜中のおしっこ」が同時に続くうちに、「おしっこすると起こされる」と体が感じ取って、寝ている間に膀胱の中に貯められるおしっこの量が増えるのではないか、と考えられています。
よく行われる治療法なのですか?
川合先生 アラーム療法は、保護者の方がお子さんを起こさないといけないことが大半で、これが大きな負担になることもありますし、日本では自分でアラームを購入する必要があります。
なので日本では、保険対象であるミニリンメルトを投与してみて、それでも効果が上がらない場合はアラーム療法をする医療機関が多いようです。
夜尿症は放っておいても治る?
どのくらいの期間、治療を受けることで、夜尿症は治るのでしょうか? 自然になくなるよりも効果は高いのでしょうか?
治療を受けた方が早く治る
川合先生 治療を受ければ3年後には80%のお子さんが治ると言われています [*15,16]。自然に夜尿症がなくなるお子さんもいますが、治療を受けるよりもやや少なめです。
夜尿症の治療期間と治療率

大人になってからも夜尿症が続く方はいるんでしょうか?
川合先生 います。報告によって違うんですが、15歳以上の1~2%とか、20歳以上で0.5%と言われています [*17,18]。でも診断を受けていない人もいることを考えると、おそらくもっといると考えられます。
いつかは治ると思って夜尿症を放っておいた結果、大人になっても続いてしまう人も、わずかでもいるということになります。
月1回以上のおねしょが続いていたら、病院で診てもらうのがいいですね。
夜尿症のために、家でできることはある?

親御さんが子どもの頃におねしょをしていたけれど、そのうち治った、という場合は治療を受けようと思わないかもしれません。また、病院が遠くて通院しづらいケースもあるでしょう。
夜尿症のために自宅でできることはあるのでしょうか?
水分の摂りかたに工夫を
ご家庭でやってみて効果のある夜尿症対策はあるのでしょうか?
川合先生 これをすれば絶対効果がある、というものはありません。
ただ、食べたり飲んだりしたものがおしっこになって外に出るまで3時間と言われています [*19]。寝る3時間前からは好きに飲んだり食べたりするのは控えるといいでしょう。
夕飯が寝る3時間前よりも後の場合は、食事だけとって自由に飲むのはやめましょう。
「夜中に起こしてトイレ」はあくまでも一時的な対処法
夜間に起こしてトイレに連れて行く、紙おむつをやめてみる、という方法はいかがでしょうか?
川合先生 子供がおねしょをする前に、夜中に起こしてトイレに連れて行っておしっこをさせることは、その晩だけはおねしょを回避することはできるので、お泊りの時などにはいいと思います。ただ毎晩起こしておしっこさせても、お布団ではなくトイレで「おねしょ」しているだけなので夜尿がなくなる効果が低く、さらに大変なのでおすすめしていません。
また、「紙おむつをつけているとおしっこをしても快適だから、夜尿が治らないのではないか」という方もいますが、そもそも夜尿のお子さんは体が濡れても眠り続けることが多いです。一方で、紙おむつをはずしたら夜尿症がなくなったというお子さんもいないわけではありません。
私は、布団や服がおしっこで濡れても対応する余裕があるタイミング(夏休み、休日の前日など)から、紙おむつをはずしてみることをおすすめしています。
家庭であれこれやってみる前に、気になったり大変だと感じたら、病院に相談するのがよさそうです。
「要注意なおねしょ」って?
川合先生 5歳頃から半年以上夜尿しなくなったのに、またおねしょをするようになった場合は、神経学的な問題があったり、ごくまれですが糖尿病で夜間多尿になっている可能性があります。
この場合は、何か病気が隠れていないか医療機関を受診した方がいいでしょう。
1カ月くらいおねしょがなくなってからまた再開する場合は大丈夫ですか?
川合先生 夜尿症が一度よくなって、1カ月おねしょがなくなって、またおねしょをすることはあります。夜尿症は一度落ち着いて、しばらくするとまたおねしょが見られて、また落ち着いて、というように、少しずつ繰り返しながら消えていくことが多いです。
こういう短期間に消えたり起こったりするおねしょは、急いで診察を受けなくても大丈夫です。
まとめ

夜尿症の定義は「5歳を過ぎてから、月に1回以上、睡眠中におもらしをする」ことです。
その原因は、睡眠中につくるおしっこの量が多いから、睡眠中におしっこを膀胱内に貯めておけないから、おしっこが漏れそうになっても起きられないから、などの要因がからみあっていると言われています。
しつけや育て方、お子さんの性格は原因ではありません。
夜尿症は自然になくなるのを待つよりも、治療を受けた方が早く確実に効果は上がりやすいです。抗利尿ホルモン剤の投与や、アラーム療法が治療の中心です。
お子さんが困っていなくても保護者の方がつらいと感じたり、一度なくなった夜尿症が半年以上経って再開した時には、ぜひ病院を受診しましょう。
(文:大崎典子/監修:沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 川合志奈先生)
※画像はイメージです
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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