【医師監修】妊婦の頭痛 よくある原因と深刻な症状とは?効果的な頭痛対策
妊娠中はマイナートラブルが付き物ですが、そのひとつに「頭痛」があります。妊娠によって自然と起こりやすくなる頭痛もありますが、特に妊娠中期半ばから妊娠後期にかけての妊婦さんの場合、中には病気の症状として頭痛が起きていることもあります。よくある原因と注意したい病気、対処法についてまとめます。
妊娠中の頭痛によくある原因 3つ
妊娠中に頭痛を起こすことは珍しくありません。妊婦さんに頭痛を起こす原因でよくあるものを解説します。
1. ホルモン分泌の変化による頭痛
妊娠すると、女性ホルモンのひとつであるプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増えます。このホルモンには血管を拡げる作用があり、脳内の血管が拡張します。拡張した血管が周囲の神経を刺激することで、頭痛が起こると言われています。
特に妊娠初期で頭痛に悩む妊婦さんは以下の記事を参考にしてください。
▶︎妊娠初期の頭痛はなぜ起こる?考えられる原因と対処法、注意すべき症状
▶︎つわりの頭痛対策 | 7つのセルフケア方法
2. 眼精疲労や肩こりで起きる頭痛
妊娠中に限らず、頭痛の原因でもっとも多いのが体や心が受けたストレスにより筋肉が緊張して起こるもので、「緊張型頭痛」と呼ばれています。PC操作などによる眼精疲労や、悪い姿勢を長時間続けるなどすると首や肩の筋肉に負担がかかり、この頭痛が起こります。
3. 妊婦さんの年齢層に多い片頭痛
片頭痛も妊娠中に限らずよく見られる頭痛です。
20~40代の性成熟期女性に多く、片頭痛持ちの女性は男性の3.6倍ともいわれています[*1]。片頭痛には頭が痛くなる前に前兆のあるタイプとないタイプがあり、よくある前兆は頭痛が起こる前に「視野の中心に光が見える」というものです。
ここまでで説明した原因のほかに、頭痛が症状として現れる病気もあるので、次項で解説します。
注意が必要な頭痛の種類は?
妊娠中に頭痛が起こるのはよくあることで多くは適切な対処により治まりますが、中には注意が必要な病気が隠れていることもあります。
妊娠高血圧症候群|妊娠中期半ば〜後期・分娩後の高血圧を伴う頭痛
妊娠高血圧症候群は妊娠中に高血圧がある、または高血圧に伴って腎臓や胎盤、肝臓、脳・神経、血管などの臓器に異常を起こす病気です。この場合、高血圧のほかに頭痛の症状を起こすことがあります。そのほかにも蛋白尿、急激な体重増加、むくみなどの症状が現れることがあります。
妊娠20週以降〜分娩後12週までの期間に全妊娠の約10%にみられる[*2]と言われ、妊婦さんの命や妊娠継続にかかわることも。妊婦健診でこの病気の疑いがある場合は、治療または経過観察を受けることになります。
子癇|妊娠中期半ば〜後期・分娩・産褥期に起こる頭痛などが前兆
子癇(しかん)は妊娠20週以降に起こるてんかんに似たけいれん発作のことで、多くは妊娠高血圧症候群の妊婦さんで起こりますが、高血圧がない妊婦さんが発症することもあります[*3]。
子癇の発作では、突然失神し口元から全身へとけいれんが拡がり、手足をつっぱるような動きが数十秒続いたのちに、手足やまぶた、口を激しく動かすけいれんが数分続いてから治まります(強直間代発作)。
このけいれん発作が起こる前に、頭痛や目の前がチカチカする、みぞおちからへそ辺りの痛み(胃の痛みと間違えられることもあります)などの症状があることが多いと言われています。
子癇発作が起きたら、気道確保や酸素吸入などの救命処置や薬によるすみやかな対応が必要なので、すぐにかかりつけ医もしくは119番に連絡してください。
脳卒中|妊娠中はリスクが高め
脳卒中は、脳の血管が破れるか詰まるかして脳に血液が届かなくなる病気です。妊娠高血圧症候群が原因で起こることも多いです。脳卒中の症状にも頭痛があり、他に意識がなくなったり、けいれんを起こすこともあります。
脳卒中は日本人の死因の第3位となっている病気ですが、妊娠中は妊娠していない時と比べて、脳卒中を起こすことが多いとも言われています。症状に気づいたらすぐにかかりつけ医もしくは119番に連絡してください。
これらの他、他に、風邪、インフルエンザなどの感染症や貧血、熱中症、腫瘍などが頭痛の原因となっていることもあります。
特に注意すべき頭痛と、その他の症状
■特に注意したい頭痛の症状
・突然頭を殴られたような激しい頭痛
・これまで感じたことのないような激しい頭痛
・意識がない
また、頭痛の程度はそれほどひどくなくても、頭痛とともに下記のような症状もある場合も、できるだけ早く受診してください。
■頭痛とともに気をつける症状
・片方の手足や顔半分マヒやしびれがある(手足のみ、顔のみの場合もある)
・突然言葉が上手く出てこなくなった、ろれつが回らない、他人の言うことが理解できない
・立てない、歩けない、ふらつく
・片方の目が見えない、物が二重に見える、視野が欠ける
・けいれん発作がある
・吐き気や嘔吐を伴う
妊娠中の頭痛の対処法
妊娠中に頭痛があったとき、念のため覚えておきたい病気を紹介しましたが、妊娠中の頭痛の多くはしばらくすれば治まる、心配のないものです。妊娠中だけど、頭が痛くて少し辛い。そんなときの対処法も解説します。
日常でできる頭痛対処法
・肩や首をほぐすストレッチ
・頭痛や首、肩のコリに良いとされるツボを刺激する
・入浴
頭痛体操のやり方
※行うときは頭をなるべく動かさないようにします。体操の最中に痛みが激しくなったら、すぐに中止してください。なお、片頭痛の発作中や激しい頭痛があるとき、熱があるときは行ってはいけません。また普段の頭痛では起こらない症状(吐き気、ろれつが回らない、物が2重に見える、めまい・痙攣など)を感じたら、すみやかに受診しましょう。
■腕を振る体操(1回2分)
■腕を振る体操/椅子に座ったままで行う場合
■肩を回す体操(6回繰り返す)
・前回し
・後ろ回し
[イラスト・解説]出典:坂井文彦(埼玉国際頭痛センター)より許可を得て転載/「片頭痛」からの卒業(講談社現代新書)より
頭痛予防としてできるケア|鉄分、水分、運動
■鉄分を積極的に摂る
妊娠中は貧血になりやすいため、鉄分や葉酸などのビタミンが含まれた食材を積極的に摂るようにしましょう。
●鉄分を多く含む食材
豚レバー、鶏レバー(※1)、牛もも肉、きはだまぐろ、かつお、あさり、さんま、鶏卵、がんもどき、納豆、ほうれん草、小松菜など
●鉄分を多く含む食材
豚レバー、鶏レバー(※1)、牛もも肉、きはだまぐろ、かつお、あさり、さんま、鶏卵、がんもどき、納豆、ほうれん草、小松菜など
ビタミンB12・B6や葉酸を多く含む食材
牛レバー、豚レバー(※1)、魚介類、貝類、卵黄、チーズ、大豆、納豆、ほうれん草、ブロッコリー、にんにく など
妊娠中の貧血予防について詳しくは下記の記事を参照してください。
関連記事 ▶︎妊婦の鉄分補給に役立つ6つの栄養素とは?
■水分をこまめに摂る
軽い脱水症状により頭痛が起こることもあります。普段から、喉が渇いてから飲むのではなく、こまめに水分補給することを心がけるようにしましょう。1日1.2Lくらいを目安に[*4]すると良いでしょう。
■適度に運動する
全身の血液の巡りを良くし、肩や首のコリを防ぐために適度な運動も行いましょう。 妊娠中におすすめの運動は、ウオーキングやマタニティヨガ、ピラティスなどです。
詳しくは下記の記事も参照してください。
関連記事 ▶︎妊婦のスクワット<写真で解説>|時期別のやり方とおすすめの運動
頭痛の際、妊娠中も薬は飲める?
妊娠していない時、頭痛を感じたら頭痛薬を飲みますよね。でも、お腹に赤ちゃんがいる状態で薬は飲めるのでしょうか。
医師や薬剤師に相談してから
妊娠中であっても、比較的安心して服用できる頭痛薬もあります。ただ、薬が赤ちゃんに与える影響は妊娠週数や薬の種類によって異なるので、妊婦さんが自己判断で使用するのはやめましょう。湿布も使用量や時期によっては赤ちゃんに影響することがあります。ともに、事前に医師や薬剤師に相談してから服用・使用してください。
■妊娠中でも服用できる頭痛薬
頭痛薬の中でも「アセトアミノフェン」という成分は、妊娠中でも比較的安全性が高いといわれています。ただし、一緒に含まれているカフェインなどの量に注意が必要な場合もあるので、妊娠中は必ず事前に医師や薬剤師に相談してから服用してください。
頭痛もちの人の場合は、頭痛の引き金となることにも注意を
なお、前半で紹介したように、妊娠する年代の女性はもともと片頭痛もちの人が多いものです。片頭痛は、妊娠していないときであればトリプタン、エルゴタミン、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)などで治療しますが、妊娠の可能性がある場合は別の薬が処方されます。片頭痛持ちの女性は、妊娠していない時から主治医に妊娠時の対応を相談しておくと良いでしょう。
■片頭痛を引き起こす可能性があるもの
また、片頭痛を誘発するものをできるだけ避けることも大切です。片頭痛の誘発因子は人によって異なりますが、騒音や明るい日光・照明、たばこや香水のにおい、激しい運動、乗り物酔い、寝不足・寝すぎ、気候変動、ストレス、肩こり(緊張型頭痛が片頭痛とともに起こる)などが多いようです。
なお、カフェイン摂取が片頭痛の引き金になることもあります。片頭痛もちの人は頭痛もちでない人と比べて、油っぽい食べ物やコーヒー・お茶を多く摂っていることが多かったという報告もある[*5]そうなので、当てはまる生活習慣がないか振り返ってみましょう。
まとめ
妊娠中の頭痛の多くは心配のないものです。ただ、妊娠高血圧症候群の可能性がある人にこれまで感じたことのない頭痛が起こったら要注意。血圧が高くない場合でも、妊娠中は脳卒中が起こりやすいといわれているので、激しい頭痛が起きたら迅速に受診してください。少し頭痛があると感じたら、入浴や水分補給、軽いストレッチなどを試してみて。軽い頭痛はよくある不調のひとつですが、自力で治すのは意外と大変なこともあります。あまり我慢せず、セルフケアで改善しない場合は医療機関を受診してくださいね。
(文:マイナビ子育て編集部、監修:浅野仁覚先生)
※画像はイメージです
[*1]Sakai F, Igarashi H.: Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey, Cephalalgia. 1997 Feb;17(1):15-22.
[*2]病気が見えるvol.10産科, p.102, メディックメディア, 2018.
[*3]病気が見えるvol.10産科, p.112-113, メディックメディア, 2018.
[*4]厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
[*5]日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン2013
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の指導を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます