【医師監修】妊婦は仰向けに寝ちゃダメ?妊娠中におすすめの寝方
普段寝るとき、好きな寝方やつい自然にとる体位は仰向けや横向きなど、人によってまちまちでしょう。普段は無意識に、好みの体位で眠れますが、妊娠中、とくに中期以降はすこし注意が必要です。ここでは妊婦が仰向けに寝るときの注意点や妊娠中のおススメの寝方についてご紹介します。
妊婦の仰向け寝はOK?
いつまで「仰向け寝」できる?
スヤスヤよく眠れたけれど、目が覚めたら仰向けで寝ていたという場合なら、妊娠期間にかかわらず大きな問題はありません。
眠っている間、“脳の眠り”と呼ばれる「ノンレム睡眠」という種類の睡眠中、体はいくらか起きていて、寝返りを打つなどして血流や筋肉の緊張を調整していますから、途中で寝苦しくて目が覚めたりしないときは、その調整が自然になされていたと考えられます。
一方、“体の眠り”と呼ばれる「レム睡眠」の間は脳が起きていて、体の緊張は緩んでいます。そして健康な人の眠りでは、一晩の睡眠の間にレム睡眠とノンレム睡眠が交互に現れて、「ぐっすり寝た」と感じるような安眠となります。
目覚めた際たまたま仰向けだったとしても、おそらくずっと仰向け寝だったわけではなく、適度に自然と寝返りを打っているので、あまり心配ないということです。
ただし、お腹が大きくなってくる中期以降に仰向けに寝た場合、子宮の重みが脊柱の右側を通っている下大静脈を圧迫し、静脈の血流を妨げて「仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)」を起こしてしまうことがあります。
「仰臥位低血圧症候群」とは?
「仰臥位低血圧症候群」は比較的、 妊娠中期以降の妊婦さんに起こりうるトラブルのひとつです。
▶妊娠中期のマイナートラブルについて詳しくはこちらの記事をご覧ください
病名の通り、仰向け(仰臥位)に寝ることで下大静脈を圧迫し、静脈の血流が悪くなって、低血圧を引き起こすもの。静脈には下半身から心臓に戻る血液が流れていますから、その流れが停滞し、血圧が急に下がることによって意識障害や頻脈(ひんみゃく)、気分や顔色がわるくなる、冷や汗が出る、吐き気を感じるなどの症状が出ることがあるのです。
インターネットなどで具合が悪くなった状況や症状をもとに検索すると「下大静脈症候群(かだいじょうみゃくしょうこうぐん)」という病名を見つけるかもしれません。
「仰臥位低血圧症候群」と「下大静脈症候群」は病態(病気によって起こる状態)が同じで、妊婦さんが仰向けに寝たときに起こるものを「仰臥位低血圧症候群」といい、別の何らかの原因(悪性腫瘍の合併症など)によるものを「下大静脈症候群」と言います。
「仰臥位低血圧症候群」は病名に“低血圧”とありますが、日頃の血圧の高低とは関係なく起こりえます。
まれに産婦人科の診察室で診察を待つわずかな時間、仰向けで寝ていただけで起こることもあります。それだけ誰にでも起こりやすいといえる仰臥位低血圧症候群ですが、体の左側を下にして横を向く姿勢(左側臥位ひだりそくがい)にし、静脈の血流が改善すると症状は速やかに回復します。
「仰向け寝」NGサインは?
寝苦しさを感じて目覚めたり、お腹が張る、腰痛、気分が悪いといった何らかの不快な症状を感じるようなら、仰向け寝をやめ、左側臥位にして様子を見ましょう。症状が改善されないときは別の原因である可能性も考え、かかりつけの産科に連絡をしましょう。
また、仰向け寝では静脈のそばを通るリンパ管も圧迫されることがあります。リンパ液の流れが停滞するとむくみにつながるので、むくみがある場合も仰向け寝を控えましょう。
その他、妊娠中のむくみについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
▶︎妊娠中のむくみと注意点
▶︎着圧ソックスの選び方・使い方
▶︎臨月のむくみ対策
妊娠後期・臨月の仰向けは? この時期向きの寝方はあるの?
母子の健康とお産に備えて大切な睡眠を十分に確保するために、妊娠後期・臨月の楽な寝姿勢について知っておきましょう。
妊娠後期に楽な寝姿勢は?
お腹が大きくなってくると、寝返りを打つことも大変になってきます。また、仰向け寝は腰に負担を感じる場合も多くなります。就寝時から体の左側を下にして横を向く姿勢(左側臥位)で、抱き枕を抱えるようにして寝ると、比較的楽に寝られます。
左側を下にするのは静脈の圧迫や「仰臥位低血圧症候群」を予防し、心臓に戻る血液の流れを妨げないため。脊柱の左側を通るのは動脈なので静脈に比べて弾力があり、体重で潰れにくいので「左側を下」がポイントです。また、むくみ予防にもなります。
シムスの体位って?
妊婦さんの楽な寝姿勢に「シムスの体位」があります。
「どのような体位が楽かは人によって違いますし、寝返りが打ちづらくても、いくらかは変化をつけたいこともあるので、『シムスの体位』も覚えておくといいでしょう。足の間にクッションや抱き枕を入れるとより快適になる人もいます。いろいろ試して自分の楽な姿勢を見つけましょう」(松峯先生)
「シムスの体位」のやり方
1. 左側臥位で横向きに寝る
2 .少しうつ伏せ気味になり、下の左足を楽な位置へ伸ばす
3. 上の右足は付け根から曲げて、左足より前に出す
※抱き枕の上にのせるなどして右足を浮かすのもOK
4. 右手は前に出して曲げ、楽な位置に
5. 左手は体の後ろで伸ばすなど楽な位置に
▶左側臥位・シムス位について詳しくはこちらの記事をご覧ください
仰向けがしたくなったときは?
左側臥位やシムスの体位がつらかったり、少し姿勢を変えたいときには、下大静脈ルート部分をクッションなどで角度30〜45度ほど浮かせ、左側臥位のように真横を向かない「30度仰向け寝」を試してみましょう。その際、布団などを利用して前後をガードするとクッションが外れて姿勢が崩れにくくなります。
お腹の張り、腰痛、足がつる……妊娠時の睡眠トラブルの対処法
次のような症状で目が覚めてしまったら、楽な姿勢に改めて様子を見ましょう。症状が続いたり、痛み、出血が見られたり、便秘が解消しないなど何か心配なことがある場合は、産科を受診して主治医に相談しましょう。
お腹が張る
お腹の張りを感じるタイミングや感じ方は人によって多様で、その多くはあまり心配のいらない一時的な生理現象です。
▶妊娠中のお腹の張りについて詳しくはこちらの記事をご覧ください
赤ちゃんの胎動や、妊婦さん自身の寝姿勢や疲労、便秘など、思い当たる原因があり、楽な姿勢でしばらく安静にしていて治る場合は心配せず、疲労回復や便秘改善を心がけながら大事に過ごしましょう。
妊娠中の疲労・便秘対策について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
▶︎妊娠初期のだるさ 原因と対策
▶︎妊娠後期〜臨月の眠気 原因と対策
▶︎妊婦の便秘 解消法
腰が痛い
妊婦さんのマイナートラブルとして筆頭にあげられる腰痛。日中の活動中だけでなく、就寝中も同じ姿勢で長く続けると、腰に負担がかかり、痛みを感じやすくなります。日中からマメに腰や背中、脇の筋肉を前後左右に伸ばしてほぐすストレッチを習慣にしましょう。妊娠中の腰痛対策について詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶︎妊娠中の腰痛対策
▶︎臨月の腰痛対策
そして自然な寝返り運動を妨げない寝具を選びましょう。やわらかいマットレスは体が沈み、寝返り運動を妨げることがあります。なるべく硬めのマットレスで、寝ている間も自然な寝返り運動によって筋肉ストレッチが行われ、睡眠に影響しないように配慮しましょう。
なお、陣痛が腰の痛みから始まることもあります。個人差はありますが、起き上がれないほど強く痛み、徐々に痛む位置が下がってきて、痛みの間隔が規則的・周期的な場合は、陣痛の可能性があります。
陣痛の始まりの痛みについては以下の記事にまとめてあります。
▶︎陣痛の始まりはどんな痛み?
あらかじめ主治医から「陣痛間隔がこれくらいになったら連絡してください」などと伝えられていると思いますので、夜中であっても落ち着いて、指示通りに動きましょう。
陣痛間隔については以下の記事で詳しく解説しています。
▶︎陣痛の間隔がバラバラで不規則な場合は?
▶︎5分間隔だけど我慢できる痛み これは陣痛?
足がつる
妊婦さんの睡眠中のトラブルとして多く訴えがあるのが、足がつること、一般的に「こむら返り」と呼ばれる症状です。それはとくに妊娠中期以降、お腹が大きくなるにつれ下半身の血の巡りが悪くなることで起こりやすくなります。
日中に適度な活動・運動で全身の血液循環を促すとともに、寝るときは膝から下全体を「足枕」ですこし高く上げて休むと、ふくらはぎが血液を押し出すポンプ力をサポートすることになり、下半身の血の巡りが改善されます。
また、足がつりやすくなる原因のひとつとしてマグネシウムなどミネラルの不足が考えられるため、食事の栄養バランスを見直すことも大切です。塩分をとり過ぎるとミネラルバランスは崩れやすくなるので、塩分の過剰摂取に気をつけ、新鮮な野菜や海藻、豆類など不足しがちなミネラルが豊富な食品を過不足なくとりましょう。
妊娠中に足がつることについては以下の記事で詳しく解説しています。
▶︎妊娠中のこむら返り 原因と予防・対処法
まとめ
自身の体内で大事な赤ちゃんを育んでいる妊婦さんにとって、滋養となる睡眠はとても大切です。寝姿勢などに配慮をして十分にお休みしましょう。また、寝姿勢やお腹の張り、腰痛、足のつり(こむら返り)のほかにも変調を感じ、睡眠に影響している場合は、主治医に相談しましょう。
その他、妊娠中の睡眠については以下の記事をご参照ください。
▶︎寝過ぎると胎児に悪影響? 妊婦の理想的な睡眠時間
▶︎妊娠中に眠れない原因
▶︎妊娠中期に寝てばかり 大丈夫?
(文・構成:下平貴子/日本医療企画、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
古賀良彦「知りたいサイエンスシリーズ いきいき脳のつくり方」(技術評論社刊)
日産婦学会監修「Babyプラス」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます