ビーツの食べ過ぎの注意点|栄養の効果とリスクを解説【管理栄養士監修】
濃い赤紫色が特徴的なビーツ。「食べる輸血」とも言われており、栄養が豊富な食べ物です。健康のために積極的に摂りたいところですが、一方で食べ過ぎによる悪影響の心配はないのでしょうか? ビーツの栄養のメリットとデメリット、1日の適量ついてお伝えします。
ビーツはどんな食べ物?
ボルシチの赤色のもととしても知られるビーツ。日本ではまだ馴染みが薄いですが、どんな食べ物なのでしょうか。
ビーツとかぶは別の野菜!
ビーツは、ほうれん草と同じアカザ科の野菜です。かぶのような見た目をしていますが、アブラナ科のかぶとは種類が異なります。また、赤かぶの色はアントシアニンによるものですが、ビーツの赤色は別の色素によるもので、ビーツにアントシアニンは含まれません[*1]。
加熱すると甘みがアップ
ビーツはかぶと比べて甘味成分が多いという違いもあります。かぶの糖質*は100gあたり3.5g、ビーツは7.3g[*2]。生だとほんのり甘い程度ですが、加熱することで甘みが増します。
また、ビーツに含まれる糖質のうち、ほとんどがショ糖であるのも特徴です。このショ糖は砂糖の主要な成分でもあります。ビーツの仲間である甜菜から砂糖の一種であるてんさい糖がつくられることを考えると、ビーツにショ糖が多めなのも納得ですね。
ビーツの栄養成分の効果は?
スーパーフードと言われるビーツ。どのような効果があるのか見ていきましょう。
抗酸化作用のあるベタシアニン
ビーツの赤い色は、ベタシアニンいう植物色素によるものです。ベタシアニンは活性酸素の産生を抑える抗酸化作用が強いと言われています[*3]。
活性酸素は細胞内での情報伝達や体の免疫機能などで重要な役割を担っている一方、過剰になると老化やがん、生活習慣病などの原因となるため、活性酸素の働きと抗酸化作用のバランスをとることが大切になります。
抗酸化作用のある抗酸化物質は体内でも合成されますが、ベタシアニン(ポリフェノールの一種)のように食品に含まれる抗酸化物質もあり、ポリフェノールのほか、カロテノイドやビタミンC、Eなどが知られています[*4]。 バランスの良い食事で抗酸化物質を上手に摂取していきたいですね。
バランスよく摂れる食物繊維
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がありますが、ビーツには両者がバランスよく含まれています[*2]。 水溶性食物繊維には便を柔らかくし、不溶性食物繊維には便のかさを増やすことで腸の動きを活発にする作用があり、両方がバランスよく働くことで排便が促されます。水溶性食物繊維は不溶性食物繊維と比べて摂りにくいこともあるので、一緒に摂れるのはうれしいですね。
また、水溶性食物繊維には血糖値の急激な上昇を防いだり、コレステロールの吸収を抑制する役割もあり、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病や肥満の予防改善が期待できます。
むくみ予防に効くカリウム
ビーツにはカリウムが豊富です。水溶性のカリウムは水に流れだしやすいのが難点ですが、ビーツの場合は損失が少なく、生のビーツ100gあたり460mg、ゆでたものでも420mgが含まれます[*2]。カリウムの多いバナナが360mgなので、それよりも多いのですね。
塩分の取り過ぎは血圧上昇やむくみの要因となりますが、カリウムには体内から塩分の排泄を促す働きがあり、高血圧やむくみの予防改善に役立ちます。このほか、神経の伝達や筋肉の収縮にも関わっており、さまざまな役割を果たしているので、不足しないことが大切です。
また、骨や歯の形成に必要なカルシウムやリン、マグネシウム、味覚を正常に保ったり免疫に関わる亜鉛も含まれています。
妊娠にも大切な葉酸
ビーツは糖質、脂質、たんぱく質の代謝に必要なビタミンB群を含んでいます。その中で特に豊富なのが葉酸です。葉酸は血液の産生や細胞の再生に関わっていて、貧血や口内炎の予防に役立ちます。貧血のときには鉄を思い浮かべるかと思いますが、あわせて葉酸も摂るといいですね。
また、発育にも重要な栄養素であり、胎児の身体を作るために欠かせないため、妊娠中や妊娠を計画している女性はより多く摂ることが望まれます。
グルタミン酸が豊富
ビーツにはグルタミン酸が多く含まれています。グルタミン酸はたんぱく質を構成するアミノ酸の一種で、昆布のうま味成分として知られていますが、それ以外の効果として、胃や腸の粘膜の分泌を促し、胃腸の保護作用を高める働きがある可能性も指摘されています[*5]。
一酸化窒素のもとになる硝酸塩
野菜に含まれる成分の1つに硝酸塩というものがあり、ビーツには比較的多いといわれます。硝酸塩は体内で一酸化窒素(NO)に変換されますが、この一酸化窒素には血管を広げる作用があり、動脈硬化の予防に働くと考えられています。また、血管を広げることで筋肉へ酸素や栄養を届きやすくすることから、運動のパフォーマンスを高めることが期待でき[*6]、スポーツ分野で注目されています。
■硝酸塩にはデメリットもある?
一酸化窒素のもとになる硝酸塩ですが、一方でリスクも指摘されています。硝酸塩が体内で亜硝酸塩に変化すると、ヘモグロビンの異常を引き起こすおそれや、発がん性物質の生成を促すおそれがある、というものです。しかし、硝酸塩は体内でも生成されるため、食物から摂取した硝酸塩がどのくらい亜硝酸塩に塩化するのかははっきりとしておらず、硝酸塩の摂取とがんの発症リスクの関連性についても同様です[*7]。
ビーツをはじめ、野菜はビタミン、ミネラル、食物繊維のとても大切な供給源なので、硝酸塩のために野菜を摂取しないことは、別の面でさまざまな悪影響を引き起こすことが心配されます。通常の量でビーツなどの野菜を食べる分には、硝酸塩のリスクを過剰に気にする必要はないでしょう。なお硝酸塩は、野菜を洗ったり茹でるなどの調理をすると減らすことができます[*7]。
ビーツを食べ過ぎるとどうなるの?
ビーツをたくさん食べたときにはどのようなことが考えられるのでしょうか?
シュウ酸の過剰摂取
ほうれん草にシュウ酸が含まれることはご存じの人も多いかもしれませんが、ほうれん草の仲間であるビーツにもシュウ酸が含まれます。
シュウ酸の過剰摂取は尿路結石症のリスクを高める要因の1つです。また、シュウ酸はカルシウムの吸収を妨げる作用もあります。ビーツをどれだけ食べたらシュウ酸の過剰摂取になる、ということは言えませんが、シュウ酸はコーヒーやお茶からも摂取されるので、ビーツも適量を摂取する程度に留められるとよいでしょう。
尿や便が赤くなることがある
ビーツを食べると、まれに尿や便が赤くなることがあります。これは、水溶性のベタシアニンが尿中に含まれるために起こります。食べたあと2~4時間がベタシアニンの排出のピークであるとの研究結果もあることから[*8] 、ずっと赤い尿が出ることはないでしょう。血尿かとびっくりするかもしれませんが、心配はなさそうです。
腹痛や下痢、便秘が起こる
ビーツに含まれる食物繊維は、適量を摂れば便秘や下痢の改善に役立ちますが、急に大量に摂取すると、排便リズムを乱してしまうこともあるでしょう。腹痛や下痢、便秘を引き起こしたり、お腹が張る、おならが出やすくなる、といったことも考えられます。食物繊維はお腹の調子を見ながら摂取するようにしてくださいね。
ビーツの1日の適量は?
通常の食事で食べる量のビーツであれば問題ないと言えますが、1日の適量はどれくらいなのでしょうか。
1日100g程度が目安
健康日本21(第2次)では、野菜の摂取目標を1日350gとしています[*9] 。日本人の野菜の平均摂取量は目標に届いていないので[*10] 、積極的に摂りたいですね。野菜350gをすべてビーツで摂ると栄養が偏ってしまうため、だいたい100g程度を目安にするとよいでしょう。
ビーツは缶詰やパウチされているものも出回っています。こうした加工品は手に入りやすく、開封してそのまま使えるので、手軽にビーツ料理を楽しむのにおすすめですよ。
その他の野菜などの食べ過ぎはこちら!
<野菜など>
▶野菜 ▶トマト ▶玉ねぎ ▶キャベツ ▶ブロッコリー ▶人参 ▶ほうれん草 ▶きゅうり ▶大根 ▶セロリ ▶ニラ ▶ゴーヤ ▶おかひじき ▶春菊 ▶もずく ▶オクラ ▶もやし ▶ルッコラ ▶枝豆 ▶たけのこ ▶アボカド
<きのこ類>
▶きのこ ▶しいたけ ▶きくらげ
<芋類>
▶じゃがいも ▶山芋 ▶さつまいも ▶ヤーコン
生ビーツの保存法
農産物販売所やスーパーで時折、生のビーツを見かけることがあります。生のビーツが手に入ったときは、新聞紙やビニール袋に入れて冷蔵庫に保管しましょう。1週間ほどで食べきるようにします。また、生で食べない場合は、加熱して冷凍保存しておくのもおすすめです。加熱すると甘みも増します。
\おすすめの冷凍方法/
① 皮をむかずに茹でて、冷めたら皮をむき冷凍する
② 十字に切れ目を入れてアルミホイルに包んで焼いたあと、皮をむいて冷凍する
皮をむくときに汁が服に飛ぶと色素が付いてしまうので、エプロンなどを着て作業するのがおすすめです。まな板にも色が残りやすいので、オーブンシートなどを敷いて切るといいでしょう。
まとめ
鮮やかな色が特徴的なビーツ。まだ日本では馴染みが薄い野菜ですが、水煮などの加工品は手に入りやすく、適度な歯ごたえと甘みもあり、食べやすいでしょう。含まれている栄養素にはさまざまなメリットが期待できますが、そのために過剰に摂取することはおすすめしません。野菜はビタミン、ミネラル、食物繊維などの大切な供給源となるので、1つのものに偏らず、幅広くほかの野菜と組み合わせて食べるようにしましょう。
(文:二橋佳子 先生/監修:川口由美子 先生)
※画像はイメージです
[*1]渡萌恵ほか:ビート(Beta vulgaris L.)におけるベタレイン含量の品種間, 生育ステージ間および部位間による差異,園学研,16 (3):301–308.2017.
[*2]文部科学省:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
[*3]前田麻起子ほか:赤ビートに含まれる植物色素ベタレインの抗酸化機能の検討,第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
[*4]厚生労働省: e-ヘルスネット 活性酸素と酸化ストレス
[*5]天ヶ瀬紀久子、中村英志、加藤伸一、竹内孝治:グルタミン酸による消化管粘膜保護作用,薬学雑誌131(12) 1711-1719(2011)
[*6]Dietary nitrate supplementation enhances muscle contractile efficiency during knee-extensor exercise in humans:Jul;109(1):135-48.
[*7]農林水産省:野菜等の硝酸塩に関する情報
[*8]The impact of the matrix of red beet products and interindividual variability on betacyanins bioavailability in humans:2018 Jun;108:530-538.
[*9]厚生労働省:健康日本21(第2次)
[*10]厚生労働省:令和元年「国民健康・栄養調査」の結果
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、管理栄養士の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます